分身ロボがいれば、社会参加できる
【田原】そこで遠隔人型分身コミュニケーションロボット「オリヒメ」の研究を始める。なぜ分身ロボットなんですか。
【吉藤】孤独は悪循環します。人と会うのが怖いから、近寄れなくなる。人と会わないと、話すこともできなくなって、自分に劣等感を抱きます。そして劣等感を抱きたくないから、さらに人を避けるようになる。このスパイラルをどこかで断ち切らないと、孤独の解消は困難です。では、どこで切るのか。劣等感を持たないように「俺はいける」と自己暗示するんです。でも現実的に難しい。となると、人がいる環境に導いて人と話すところから始めたほうがいいんじゃないかと。
【田原】その手段が、分身ロボット?
【吉藤】外に体を運べない人も、自分の分身があればそこに心を運んで社会参加することができる。そういうツールをつくろうと思いました。
【田原】オリヒメは具体的に何ができますか。
【吉藤】初めてつくったのは、そこにある人型でした。これを私の代わりに学校に置いてもらうと、ロボットが見ている映像をここで見られて、話すこともできる。動かしてダンスをすれば、先生や友達はロボットを見て私がダンスしていることがわかる。「いる」という感覚は、自分がそこにいるという実在感と、まわりが自分をそこにいると認識すること、この2つが一致して生まれます。それを実現するロボットです。
【田原】このロボットがあれば、寝たきりのまま外国へも行けますか。
【吉藤】行けます。このロボットを米国の友人のところに置いておけば。
【田原】いろんな国に行くとなると、たくさん置かなきゃいけない?
【吉藤】はい。ただ、オリヒメは自分しか入れないようにすることもできるし、ボディシェアリングしてみんなで使ってもいい。各地に置いても、みんなでシェアすればお金はそれほどかかりません。
【田原】オリヒメに性別はありますか。パッと見、よくわからない。
【吉藤】中から聞こえるのは本人の声なので、男性が使えば男性に、女性が使えば女性です。オリヒメの顔が能面のような無機質なデザインなのは、人間には豊かな想像力が備わっているから。たとえばモニターをつけて顔を表示するなど本人の情報をたくさん示すやり方もありますが、そこにいる感じを出すには、過剰に見せることより間違った情報を与えないことのほうが大事。あとは人間の想像力で補ってもらえばいいと思っています。