育児・介護してても「オリヒメ」で出社

【田原】すごいな。本人が出社しなくても、そこにいるかのように仕事ができるわけだ。

【吉藤】なので難病患者だけでなく、テレワークしたい人にも使っていただけます。育児や介護で自宅から出られない人も、ある意味では引きこもり。かつての私と同じように、休んでいるうちに戻りづらくなってしまう人も多いのですが、オリヒメで会社に居場所をつくれば辞めなくて済む。パジャマのまま働けるし、お化粧もしなくていいから、日本人女性にはフィットするんじゃないかと。

【田原】それは可能性があるね。会社にとっても優秀な女性社員をつなぎとめるツールになる。そういう使い方をしている会社はあるんですか。

【吉藤】いま約70社が導入していて、NTT東日本さんだけで約60台入っています。もちろんわが社も導入済みで、毎日オリヒメで出社している社員が3人います。じつはこの対談の窓口になった秘書も、難病で実際にはまだ1度も出社したことがありません。それでも病院から仕事ができる。メールをやりとりしていた編集部の方は、秘書が社内にいないと気づかなかったんじゃないですか。

【田原】海外展開はどうですか。

【吉藤】まずデンマークを考えています。デンマークは各国からいろんなものを輸入して、実験的に使って評価するビジネスをやっています。デンマークで導入されて効果を実証できれば、ほかの国にも説得力ある形で展開ができるだろうと。

【田原】ヨーロッパで広がる可能性はありますか。少し違うかもしれないけど、ヨーロッパでは生命科学への抵抗が強くて、ES細胞の研究にローマ法王も反対した。

【吉藤】宗教観の違いからは、日本やアジアに比べると、人間をサイボーグ化することに対しての抵抗は強いですね。でも、寝たきりの人が笑顔で働いて給料をもらい、そのお金で親に服を買ってあげる姿などを見たら、きっと彼らも寝たきりの生を否定できないと思います。

【田原】ただテクノロジーで延命するだけなら「神への冒涜」というかもしれないけど、オリヒメが手助けするのは、その人らしく生き続けるということだからね。いいと思う。

【吉藤】最後に1つ宣伝させてください。11月に人型のオリヒメ5台が働くカフェを期間限定でオープンします。操作するのはALS患者さんで、オリヒメを通してオーダーを聞いたりコーヒーを出したりします。寝たきりで天井ばかり見ていた人が、事務作業だけでなくサービス業でも働けるって、すごいことだと思いませんか。機会があれば、ぜひコーヒーを飲みに来てください。

【田原】わかりました。ぜひがんばってください。

吉藤さんから田原さんへの質問

Q. 田原さんが寝たきりになったらどうしますか?

最近、理想の死に方についてよく質問されます。そのときは、「『朝まで生テレビ』の放送中に、急に田原が静かになって、まわりが気づいたときには死んでいたという去り方が理想だ」と答えてきました。つまり、死の瞬間まで現役で働くことが僕の願いです。ただ、その死に方は自分で外出できることが前提。考えてみると僕も寝たきりになる可能性があって、そのときの死に方は深く考えていなかった。

でも、今日の対談でオリヒメを知ったから心配ありません。もし寝たきりになっても、インタビューしたい人のところにオリヒメを送りこめばいい。そのうちに、向こうも寝たきりで、オリヒメ同士で対談なんて時代がくるかもしれませんね(笑)。

田原総一朗の遺言:分身ロボットでインタビューするよ

(構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)
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