私がお酒を一切飲まなかった理由

9月10日、私は、安倍晋三首相ともに、予定通りロシア・ウラジオストクで開催される「東方経済フォーラム」に出席するため、羽田から出発した。北海道胆振東部地震の発生からわずか5日目のことである。

安倍首相が予定通りに出発できたということは、これだけの大災害に対して政府は5日で初動対応を無事に終えたということだ。また、今回の地震は、北海道と経済的な結びつきが強いロシアの極東地方で行われる「東方経済フォーラム」での関心も高く、安倍首相の出席は何よりも迅速な復旧を印象づけることに役立ったと思う。実際、私が知る限り、スピーディーな災害初動対応だったと思う。

9月6日3時7分に、地震が発生。2分後には官邸対策室を設置、7時37分に関係閣僚会議が実施された。

8日には、北海道全域にわたった停電もほぼ復旧した。苫東厚真火力発電所の完全復旧にはまだ時間がかかるものの、一部の地域を除いて道民の生活には問題ないレベルにまで到達している。電力供給を管轄する経済産業省では、世耕弘成大臣以下、東日本大震災発生後のような計画停電を行わずに乗り切るため、各方面との調整を続けている。

今回の政府の支援の特徴は、被災地の要望を待たずに国から支援物資を送る「プッシュ型支援」だ。持ち回り閣議で5億4000万円の支出を決定し、水や食料、避難所で使う仮設トイレや段ボールベッドのほか、病院の非常用電源用の重油などの支援に充てるという。

9日には、震源地に近く被害が大きかった厚真、安平の両町、液状化が起きた札幌市清田区を安倍首相が訪問した。その時期には、首相の視察を受け入れるだけの落ち着きを取り戻していたと見てもよい。

救助活動では、10日未明までに行方不明の方が全員発見された。残念ながら生存者は見つからなかったが、あれだけの土砂崩れの中で、短期間に捜索できたのは、関係者の努力のたまものである。

今回のような自然災害や、政府がかかわるような事件・事故、安全保障にかかわる問題など緊急事態が発生した場合、危機管理にかかわる閣僚や幹部官僚は20分以内に官邸に駆け付けなければならない。もしものときに対処するため、危機管理担当のスタッフは徒歩圏内にある麹町の宿舎に住んでいる。閣僚たちも、山手線の外に出るときには、副大臣や政務官が代わりに待機するというルールが決められている。今回の地震でも、未明の発生にもかかわらず、全員が20分以内に官邸に揃った。安倍首相は公邸を離れ、都内の私邸に戻ることもしばしばあるが、クルマを使えば官邸まで一応は20分以内に戻れる距離なのでOKということになっている。東京を離れる際には、菅義偉官房長官が必ず官邸を守るという建前だが、不在のときは、3人の官房副長官、6人の首相秘書官がお留守番をすることになる。

国民の安全を守る責任のある立場に任命されたら、携帯電話の電波が届かない場所に出かけることなど許されない。もし、携帯電話の電波の状況が悪いようなレストランだった場合、当日に突然変更をお願いすることもある。酒はもちろん、女性と秘密のデートなど絶対にありえない。ちなみに菅長官もお酒を飲まないし、私も小泉純一郎総理大臣首席秘書官だった当時は、一切、お酒を飲まなかった。