領土問題解決の青写真

「風土病」と私は呼んでいるが、それぞれの国には政府のプロパガンダによって刷り込まれ、国民の間に根付いた都市伝説のような「歴史」がある。たとえば中国では「中国共産党が抗日戦争に勝利して人民を解放した」とほとんどの人が信じ込んでいる。しかし、それは中国共産党が一党独裁や土地の所有を正当化するためのプロパガンダにすぎない。毛沢東が率いていた当時の中共軍は長江の上流に逃げ込んでいて、日本軍とは戦っていない。日本がアメリカに無条件降伏して終戦を迎えただけで、抗日戦争に勝利したと言える中国人は1人もいないのだ。強いて挙げれば、カイロ会談にも参加している国民党の蒋介石くらいだろう。

アメリカにも風土病がある。広島、長崎への原爆投下である。東京裁判で規定された戦争犯罪でいえば、20万人以上の命を奪った原爆投下は紛れもなく「人道に対する罪」だ。しかし多くのアメリカ人は「原爆投下は戦争終結を早め、米兵、日本国民双方の死者を減らした。必要な手段だった」という関係者や研究者のアナウンスメントを信じている。

同じように「北方領土は日本固有の領土であり、ロシアが不法に侵攻、占拠して実効支配を続けている。北方領土が返る日が、平和の日。北方四島が戻ってくるまで、平和条約なんてありえない」というのも典型的な日本の風土病だ。そもそも北方領土はアイヌ民族固有の土地ではあったかもしれないが、「日本固有の領土」と証明されたことは1度もない。領土というのは実効支配したもの勝ちである。これは世界共通のルールで、納得できなければ力で奪い返す以外にない。

北方領土の領有は第二次世界大戦の結果、戦勝国のソ連が獲得した正当な権利、とロシアは主張する。戦後処理の流れを精査すると、ロシアの言い分は正しい。北方領土は戦勝権益としてロシアに与えられて、アメリカ以下の連合国から承認された。「日本固有の領土」と主張するのは、日本が第二次世界大戦の結果を受け入れていないことになる。だからプーチン大統領やラブロフ外相からことあるごとに「第二次世界大戦の結果を受け入れるのが話し合いの原点」と言われるのだ。

安倍首相はプーチン大統領と何度も話し合って、領土問題の因果を深く理解しているはずだ。まずは平和条約を結ぶ。その後に友人であるロシアの善意と日本の見返りをバランスしながら領土問題を解決していく。今後ロシアとそうした交渉をしていくためには、北方領土に関する日本の風土病を我々自身が克服することがきわめて重要だ。

とはいえ政府や外務省が国民に突然頭を下げるわけがない。従って、たとえば日露関係や北方領土問題を正しく見つめ直すための有識者会議を組織して、政府にクレバーな日露関係のあり方や北方領土問題の解決の仕方を提言させる。決して簡単なことではないが、そうした形で歴史を正していけば国民の納得と理解も得られやすいと思う。

(構成=小川 剛 写真=時事通信フォト)
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