【山中】楽しむことは大事ですね。研究者は実験が仕事ですが、ある意味、自分の人生についても実験をしているんです。だから僕は、新しいことをなるべく試すようにしています。ときには失敗が見えていることもあります。でも、失敗したらどうなるのかを見てみたい気持ちがある。別に命まではかかっていないのだから、それも含めて楽しもうという気持ちです。

ファーストリテイリングが2010年に大阪市にオープンした国内初のグローバル旗艦店「ユニクロ 心斎橋店」。(読売新聞/AFLO=写真)

僕は30代のころ、さまざまな壁にぶち当たって悩んでいました。そのときに出合ったのが『仕事は楽しいかね?』(デイル・ドーテン著)という本です。ここには、コカ・コーラもリーバイスのジーンズも、実はほかのものを作ろうとして失敗した結果生まれたものなんだと書かれていました。それを読んで、ああ、実験や人生も同じなんだと思うことができました。成功するとか失敗するとかに関係なく、まず動く。そうしないと、次につながる何かは生まれないんです。

【柳井】僕たちの仕事も失敗だらけです。最近ようやく黒字になりましたが、バングラデシュに進出したときもそうです。テレビ番組に取り上げられたこともあり、当初は「調査不足だから失敗するんだ」と悪口を言われました(笑)。

でも、調査ばかりしているうちに、現地ではどんどん環境が変わっていきます。目の前のビジネスを動かすには、不十分な準備しかできなくても今日やれることをやるしかない。ビジネスの世界にも、そのことをわかっていない人が多すぎると思いますね。

【山中】研究でも、最初に調べすぎるのはよくないんです。調べすぎると、iPS細胞を作ったときのようなリスクの高いことができなくなってしまいます。場合によっては、調べれば調べるほど成功の確率が低いとわかる。そして研究を続けることが怖くなります。それよりも、リスクをとって進むことが大事なときがあるんです。

【2】「際」のない世界で

【柳井】やってみなくちゃわからないということが多いですね。僕はそもそも商売に向いた性格ではありませんでした。内向的で引っ込み思案だから、人前で話すのも得意ではなかった。でも、商売を続けるなかで、やっぱり自分はこの仕事に向いているという発見があった。いま振り返ると、むしろ自分を発見するためにいままでやってきたんだなと思うこともあります。

自分を発見するには、失敗してもいいからやり続ける以外にないんです。僕は『一勝九敗』という本を書いたけど、本当は1勝99敗、いや999敗。でも、その過程を楽しんで続けてきたから、自分を発見できたんです。