なぜ「手作りパン」のニーズが高まったのか
後日、クックパッドニュースの取材にも何度かご協力いただいている災害医療スペシャリストの石井美恵子さんに連絡を取りました。東日本大震災被災地をはじめ、スマトラ島沖地震、中国四川大地震などへの支援経験も持つ、日本の災害医療支援活動の第一人者である石井さんなら、被災後の生活について何か考察をいただけるのではないか。もしくは独自のネットワークで被災地の情報を既に入手しているかもしれない――。その読みは当たり、石井さんはこんなお話をしてくださいました。
「千歳で働く、医療支援活動もしていた友人たちから得た情報では、被災地ではお米が品切れになって手に入らなかったそうです。農家の方でも、玄米で保管しているでしょうから、停電で精米機を動かせないとお米がないのと同じ。白米を買うしかなかったかもしれませんね。そのため、ご飯の代わりにパンを作ろうという発想になったのではないかということでした。結果、店舗でもお米の次に強力粉が品切れになっていたそうです。お好み焼きを作ってるという人も多かったようですよ」
「記憶に新しい熊本地震の時の特徴は、長く続く余震。北海道地震は何といっても停電です。災害の性質、災害によるインパクトによって、人々の生活は必然的に方向づけられるのかもしれませんね」
「これさえあれば大丈夫」より「選択肢」を増やしておく
熊本地震はガスが止まって電気の被害は比較的軽かったという、北海道胆振東部地震とは逆の状況でした。このため、「電子レンジ」「炊飯器」などの調理家電を使った調理法の検索頻度が高まりました。また、石井さんが指摘されていた通り、余震が長く続いたため、ガス復旧後も火を使うのが不安な状況にあったことも、レンジ調理レシピなどが多く求められた一因として推測できます。
一方、北海道胆振東部地震の被災地では、停電を受け、ガスを使った調理方法が求められました。その結果として、比較的手に入りやすかった小麦粉などの粉類を活用して「パン」を作ろうという動きが顕著になったのでしょう。ダメージを受けたインフラの種類によって、被災後の食の確保手段にも違いが出てくるのです。
石井さんは、食に関する災害時の備えとしては「ありきたりですけど、やっぱりカセットコンロと水、食材があれば何とかなると思います」とした上で、警鐘を鳴らします。
「ただし、ポイントは過信しないこと。代替手段、多様な選択肢をもって、備えておくことが肝要です。これさえあれば大丈夫、と短絡的に考えるのはリスクを増すのだと思います。今回のパンは、まさにお米の代替手段だったのでしょうね」
「しかし、粉のままでは代替手段にはならない。クックパッドのレシピのように、“どう使うか”という情報と合わせて初めて代替手段となり得ます。こうした情報を得ておくことも重要な災害時の備えになるのだと思います」