「病気なら許せます」と前を向ける家族

こうした過程を経て、思い詰めてクリニックにきた家族に、万引き依存症という病気であり、衝動制御障害が見られると伝えると、ほっとした顔をされることが多いです。発覚して以来さまざまな理不尽に振り回されてきた末に、やっと光明を見た瞬間です。

斉藤章佳『万引き依存症』(イースト・プレス)

「病気なら許せます」

そう話す家族も多いです。ということは、許すかどうか迷っていたのです。

診断されたことで、本人と家族が和解し、同じ方向を向いて再発防止について真剣に考えられるようになります。治療を進めていくうえで周囲の足並みがそろい、本人へ同じ対応ができることはとても重要です。「あっちではこう言われたのに、こっちではこう言われる」と混乱させると、安定した治療を継続できません。

ここで気をつけなければいけないのは、単純な病理化は危険だということです。依存症の診断がついたことで本人が「そういう病気なんだから、私が万引きするのは仕方のないこと」という世界観につながってしまうと、いつまでも回復はできないでしょう。行為に対する責任も一切取れません。

そうならないよう、私たちのクリニックでは、反復する万引き行為が周囲に与える影響について彼ら自身に考えてもらいます。常にこちらから行為責任について考えてもらい、それを受けて本人は自分がしたことの責任性について考えます。

離婚を選ぶケースは意外と少ない

しかし家族が「病気なら許せます」と受け取ることには、一定の意味があると思います。万引き依存症からの回復には、家族の協力があったほうが治療中断率も低く回復率もいいからです。

妻なり夫なりの万引き依存症が発覚したとき、離婚を選ぶケースは少ないです。それでもやめない相手に対して「次やったら離婚」とプレッシャーをかけることがあっても、クリニックに通っている人たちにかぎっていえば婚姻関係は継続されます。「離婚しない代わりに、ちゃんと通院しなさい」と言われてクリニックを訪れる人もいます。不思議に思われるかもしれませんが、「万引きさえしなければ」いい妻であり、いい夫だからだと思われます。

万引きに耽溺した遠因が家族にあるのであれば、家族内でその問題を解決する方向に舵を切らなければなりません。家族もまた、自分自身のコミュニケーションを省みる必要があるのです。

斉藤 章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士
大森榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)などがある。
(写真=iStock.com)
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