小児性犯罪者の手口は、驚くほど似通っている。小児性犯罪の当事者に特化した治療に携わっている精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんは「加害者は『性教育』という大義名分のもとに、『ふたりだけの秘密』と偽り、口止めをする。これらの言葉によって、加害者は自分の行動や認知を正当化していく」という――。(第2回)
※本稿は、斉藤章佳『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
原因は性欲ではない
加害者は子どもの誘い方や関係性づくりに非常に長けています。彼らは、場所・時間帯・ターゲット・状況などを見極めて、巧妙に加害行為を繰り返します。
よく「性犯罪は性欲が原因だ」という言説がありますが、それは違います。これを私は性欲原因論と呼んでいますが、これでは性犯罪の本質は理解できないままです。加害者本人も「これは自分の性欲が原因で、自分はそれが抑えられなかったからだ」と思い込んでしまうからです。
しかし、小児性犯罪に限らず、痴漢や盗撮などあらゆる性犯罪の文脈において、彼らが「性欲が原因」と考えるようになるのも無理はないと思わされることもあります。とくに痴漢の場合、その傾向は甚だしいものです。『痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学』(エトセトラブックス、2019年)を著した牧野雅子さんには警察官として勤務した経験がありますが、警察には「性欲を主体として調書を取る」というマニュアルがあることが同書では明かされています。
これはクリニックの加害経験者らから聞くエピソードと一致します。彼らのほとんどに逮捕された経験がありますが、警察で取り調べを受けたときのことを聞くと、「性欲を抑えきれなくて犯行に及んだのだ」というストーリーが用意されており、それを認めるだけだったという話がたびたび出てきます。なかには、警官から「妻とはセックスレスかぁ、それはお前もつらかっただろう」と気の毒がられた、と話す人もいました。