パターン化している「決まり文句」

グルーミングには、1.オンライン、2.面識のある間柄、3.面識のない間柄、という3つの類型があります。

性暴力においては、当然ながら被害者が存在します。彼らひとりひとりの痛みは、ひとつとして同じものはありませんし、けっして相対化できるものではありません。一方で、加害者の手口に焦点を当てると、それらはまるで示し合わせたかのように似通っているのです。

もちろんそこにマニュアルがあるわけではありませんし、「ペドフィリア・コミュニティ」のような横のつながりもなければ、事前に誰かと打ち合わせをしているわけでもありません。それにもかかわらず、あらゆるケースにおいて手口は見事にパターン化しているのです。

まずパターン化しているのは決まり文句です。彼らが被害者に告げる言葉には、オンラインであろうと、顔見知りであろうとなかろうと、「口外禁止」「ふたりだけの秘密」という2つの要素が、必ずといっていいほど含まれます。

「あくまでこれは性教育。犯罪ではないんだ。誰も教えてくれないんだから、僕が教えてあげる」
「だから誰にも言ってはいけないよ」
「お母さんに話すと大変なことになるからね」
「もしバレたら、親を悲しませてしまうことになるよ」

などがよくある事例です。

グルーミングの5つのプロセス

小児性犯罪者は、被害者に対して「性教育」という大義名分のもとに加害行為に及びます。その際、彼らは「ふたりだけの秘密」と偽り、口止めをします。子どもは純粋ですから、大人から「言ってはいけない」と言われれば、黙ってしまいます。また、それにより、被害が深刻化するまで親も気づくことができません。

これらの言葉によって、加害者は自分の行動や認知を正当化していきます。これを「セルフグルーミング(自己グルーミング)」とも呼びます。

残念ながら日本ではグルーミングについての研究は進んでいるとは言いがたい一方で、欧米ではかなり進んでいます。アメリカのフェアリー・ディキンソン大学のジョージア・ウィンターズらによれば、グルーミングは5つのプロセスに類型化できるといいます(*1)

(1)被害者の選択
(2)子どもにアクセスし、分離を進める
(3)信頼を発展させていく
(4)性的コンテンツや身体的接触に鈍麻どんまさせる
(5)虐待後の維持行動
(1)被害者の選択

まずここでは、加害者は「どんな子どもなら自分が手なずけられるのか」、加害できそうなターゲットを探します。具体的には自尊心が低い、孤立している、貧困状態、物理的に父親が近くにいない子ども、母子家庭で「父親」という存在を求めている子どもなどです。

(*1) Winters, Georgia M. et al.“Toward a Universal Definition of Child Sexual Grooming”. Deviant Behavior 43 (2022): 926-938.

ランプ前の男性のシルエット
写真=iStock.com/liebre
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