「セックスレスでしたか?」と聞いても意味がない

裁判になると、検察官が被告(加害者)に「あなたは性欲を抑えきれなくなり、犯行に及んだんですよね」と尋ねます。これはとてもストレートな聞き方で、もっと歪曲わいきょく的な方法が取られることもあります。情状証人として出廷した妻に「事件を起こす前、あなた方には夫婦関係がありましたか?」「セックスレスでしたか、どうでしたか?」と尋ねることで、被告は性欲をもて余していたということを裁判官に印象づけるというものです。

私も情状証人として出廷することがあるので、こうした光景を何度も法廷で見聞きしていますが、即刻改めるべき慣習だと思っています。そこには、妻のせいで夫の性欲が暴走し、犯罪行為という結果になったというバイアスがかかっています。

妻へのセクハラである点も問題ですが、さらに悪いことに被告本人がこの考えを内面化し、「男が性欲を抑えきれないのは仕方ない、だから自分が性加害をしたのは仕方がないんだ」という価値観を強化する道具に使うこともあります。まさに日本は男の性欲に甘い「ちんちんよしよし社会」だなと実感します。

私は「男性とは性欲をコントロールできない生き物だから、性犯罪を犯すものだ」という言説に、なぜ男性から反論が起きないのか不思議に思っています。これは男性から「違う、そんなことはない」とはっきり否定しなければなりません。友達との雑談中に性欲の高まりを感じても、その場でマスターベーションをする人はいません。男性にとっても大変不名誉な価値観だと思います。

手錠逮捕された男性ビジネスマン
写真=iStock.com/djedzura
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「被害者が悪い」と言われかねない

この性欲原因論の行きつく先が、「性欲を喚起させた被害者が悪い」と考える責任転嫁です。さすがに幼い子どもが性暴力の被害者になったときに、子どもの落ち度をあげつらう人はいないと思いますが、痴漢などの性暴力で「露出度の高い服を着ていたから」「短いスカートをはいているということは、盗撮してもOKというサイン」など、加害行為を被害者の責任にする考え方は、セカンドレイプ(二次被害)にもつながります。

とくに子どもが被害者の場合は親、とくに母親の落ち度を指摘するような発言が見られます。「ちゃんと面倒を見ていなかったから」「子どもらしくない洋服を着せていたから、変質者を刺激したんだ」というような具合です。

2017年3月に千葉県松戸市で当時9歳の女児が殺害された事件で、強制わいせつ致死などの罪に問われた男は、被告人質問の際に「親が守っていればこんなことにならなかった」「ひとりで行かせたから事件にあった」と、あたかも自分が女児を殺したのは両親の責任であるかのような発言をしました。凄まじい認知の歪みです。

当然ながら、子どもが性暴力にあうことと、親が目を離していたことには、なんの因果関係もありません。そもそも性暴力をやっていい理由なんかどこにもありません。

繰り返しますが、加害者はいくら子どもに触りたいと思ったとしても、けっして交番の前では加害行為に及びません。加害できる場所や状況、時間帯、ターゲットを慎重に選んでいるのです。