万引き依存症者に反省が見られない理由のひとつに、「被害者意識」があります。
スーパーやコンビニから商品を盗んでおきながら被害者とは、と驚かれるかもしれませんが、これはさまざまなジャンルの加害者に共通して見られます。
DV加害者であれば自分が暴力をふるっておきながら、相手から訴えられると「そこまでひどいことをしたわけではないのに訴えられた自分はむしろ被害者だ」と思いますし、痴漢加害をした男性が逮捕されたら、「ちょっと触っただけなのに自分の人生が終わってしまう」と思います。自分が加害者だという意識は、完全に抜け落ちています。
万引き依存症者は特にその意識が欠けています。「たいしたものを盗っていないんですけどね」――これは、彼らから本当によく聞く言葉で、クリニックに通うようになってもぽろっと口に出ます。認知の歪みに向き合い、修正しにきている場でそう言ってしまうということは、そういう言い訳をすることが日常的に習慣化しているということです。たいしたものを盗っていないのに逮捕されたり叱責されたりすることで、気分はすっかり被害者なのです。
「失敗したから捕まった」でしかない
万引きをした帰り道、Gメンや警察が追ってくるのではないかとビクビクする人もいます。万引きという加害行為をしたことを忘れ、自分のことを怖い人たちに追われている被害者のように思っています。
それでも、さすがに何度も逮捕されると反省をするのではないか、加害者という意識も芽生えてくるのではないか、という期待はむなしく裏切られることが多いです。
逮捕も何度目かになると、家族も「今度こそ」、「さすがに反省して変わってくれるだろう」と切実に祈りますが、残念なことにそれは叶えられません。彼らのなかでは「悪いことをしたから捕まった」ではなく「失敗したから捕まった」でしかないのです。
「やり方が甘くてGメンに見つかるようなヘマをしてしまった」
「この店はマズかった」
「今日は気づかないうちに盗ってしまったけど、次はもっと注意して盗ろう」
「運が悪かっただけ、私は悪くない」
といった程度の考えです。要はバレなければそれでいいという考えなので、そこにはやはり認知の歪みがあります。
逮捕後、罰金刑を言い渡されることがあります。刑法上は50万円が上限ですが、最初は20~30万円ぐらいが相場です。盗んだものの金額は、まったく額に反映されません。300円のものを盗んで30万円の罰金というのは、彼らにとって「割に合わない」ことになり、「何もそんな高額な請求しなくても」という被害者意識にすり替わります。
けれど実際に払うのは本人ではなく家族というケースが多く、そうなると本人は痛くもかゆくもありません。真の反省はますます遠ざかります。そのうちまた万引きをし、家族はさらに疲弊していくのです。