こんなケースもあります。
ワーキングマザーとして、もともと地元の企業で働いていたDさん。夫の転勤により生まれ育った地方を離れて、首都圏に引っ越してきました。Dさんも仕事をつづけることにしましたが、本来やりたかった経理部門には配属されませんでした。
子どもは3人ともまだ小さく、夫も比較的育児に協力的でしたが、どうしてもDさんの負担が大きくなります。周囲に知り合いもなく、自分の両親とも疎遠という環境下ではほかに助けを求めることもできませんでした。
夫の転勤から数年間、Dさんの言葉を借りると「息継ぎもできないほど」忙しかったそうです。行動範囲は、家と会社と子どもの保育園と、自宅近くのスーパーだけ。Dさんはそのスーパーで万引きを覚え、常習化し、依存症になっていきました。
Dさんの現家族は、深刻な機能不全に陥っているわけではありません。少なくとも夫にとっては、そうでしょう。けれどほぼワンオペ育児になっているDさんの負担は大きく、ストレスは毎日募っていくだけで減ることはありません。
治療の鍵は〈「ストレス」にどう対処するか〉
ストレスは、依存症への扉を開く鍵のようなものです。
治療プログラムの一貫として、万引き依存症者に万引きをはじめたころの心境を振り返ってもらうと、多くの人から「ストレスに対処した」と返ってきます。当クリニックで行った「万引きを始めた動機」のアンケートでは、50歳以上の女性に「ストレス発散」が挙げられています。16%強と数こそ少ないですが、男性にはこの回答がまったく見られないことが興味深いです。
盗んだときの心境を「むしゃくしゃしていた」「ヤケになっていた」と表現する人もいます。クリニックでの治療においては、こうした感情にどう対処していくかが課題になります。