最初は、外人部隊に入る前にイギリスに住んでいた中学時代のALT(外国語指導助手)だった人に宛てて書くことにしました。しかし、何を書けばいいかと迷い、予想以上に時間がかかってしまいました。
次には親に宛てて書こうと思いましたが、何を書こうかと悩んでいるうちにやめてしまいました。結局、最初に書いたイギリスの知人に宛てた遺書も送りませんでした。
そうこうしているうちに恐怖心が薄れてきたというか、「あれこれ考えていても仕方がない」という気持ちになっていました。
考えようと考えまいと、死ぬときは死に、助かるときは助かる。
いつのまにかそう思い至り、自分の死についてあまり考えなくなったのです。
死について深刻に考えないようになっていた
外人部隊を除隊して帰国したあとには、自衛隊の人たちと話す機会も少なからずあります。彼らからはよく「戦地に行く際の死生観はどのようなものでしたか?」と聞かれます。そんなときにどう答えればいいかは、やはり悩みます。
「死生観というほどの立派な心構えはありませんでした。死ぬことを考えていてもしょうがないから、その時々の状況において自分のやるべきことをひとつひとつこなしていこうと思っていたんです」
そんなふうに答えています。
実際にそれが現実の感覚に近かったといえます。
この頃の気持ちや精神状態はなかなかうまく表現できませんが、それほど深刻に死については考えないようになっていたことだけは確かです。
フランス外人部隊パラシュート連隊・水陸両用中隊元隊員(2004年~11年)。アフリカのコートジボワールで治安維持活動に従事したのち、衛生兵としてジブチにて砂漠訓練を経験。ガボンにてジャングル訓練を受け、アフガニスタン戦争も体験する。帰国後は看護師免許を取得、自身の経験を伝える活動もおこなっている。