HRテックの導入は、こうした日本企業の量産型製造業時代の働き方を、欧米並みに変革できるチャンスではないかと思います。HRテックを導入すると人材マネジメントに関するあらゆることがデータ化・分析されるため、合理的ではない部分が明らかになり、人材マネジメントの考え方を見直すきっかけになるからです。
日本企業の場合、HRテックの導入は部分的に進んでいます。特に導入しやすいのが、採用や研修などのように人手がかかり、一定の予算が確保されている分野です。こうした分野で導入すれば、業務を効率化でき確実に成果が上がるため、それによって徐々にほかの領域にもHRテックの導入が広がっていくでしょう。
プロスポーツ選手が、高い成果を発揮できる理由
HRテックが浸透することによって、従業員の働き方はどのように変わっていくでしょうか。前述の通り、単純作業などのパターン化できる仕事はAIやロボットに任せて、人間はより高付加価値の仕事を担うようになります。
メガネメーカーのジンズが集中力を測定するメガネを開発しましたが、その測定データを分析したところ、人が1日のうちで集中できる時間は最大でも4時間程度だそうです。そうだとすれば、仕事をする時間は1日4時間程度でいいのかもしれません。その時間は、とにかく集中して高いパフォーマンスを発揮するのです。そのために、それ以外の時間は遊んだり、休んだり、人と会ったりするなどして、仕事のウオーミングアップのために使います。
この働き方は、プロスポーツの世界と似ています。例えば、野球の試合は2~3時間、相撲に至っては数十秒です。しかし、その時間に最大のパフォーマンスを発揮するために、ウオーミングアップや健康管理などの準備に多くの時間を費やしています。これからは、ビジネスパーソンにも、プロスポーツ選手のような働き方が求められるようになるかもしれません。
別の観点から言えば、「x(クロス)テック」という言葉があるように、今や、あらゆる分野でテクノロジーが活かせる可能性があります。自分の業務にテクノロジーをどう活かせば価値を創出できるか。それを考えられるだけのテクノロジーリテラシーを身につけることも、これからのビジネスパーソンには必要ではないでしょうか。
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部卒。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科Ph.D.。日本モトローラ、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータ等を経て、2012年より現職。「産業プロデュース論」を専門領域として、新産業創出に関わる研究を実施。