日本は欧米より、20~30年も遅れている

HRテックを活用して生産性向上を追求する欧米企業の動きに比べると、日本企業はだいぶ後れを取っています。その背景には、労働生産性に対する考え方の違いがあると思います。それは、日本における「働き方改革」の議論が残業時間や有給休暇の消化などに偏っていることにも関係しています。

ソフトバンクグループの新卒採用では書類選考にAIが利用されている。(時事通信フォト=写真)

私は1990年代に3つの外資系企業で働いた経験がありますが、すでに当時から欧米企業では残業の概念がなく、社員は1日7~8時間働いて、有給休暇も当たり前のように取得しており、有休消化率という概念すらありませんでした。

私が外資系企業で意識づけされたのは、「何時間働くか」ではなく、「勤務時間に対するアウトプットをどれだけ最大化するか」ということでした。その経験からすると、今、日本で議論されている働き方改革の議論は、欧米よりも20~30年遅れていると思います。

同じ時間働いて1億円稼げる人は何が違うか

日本企業は合理性よりも、とにかく頑張ることによって戦後の経済成長を実現してきました。産業の中心だった量産型の製造業では、労働生産性が「定数」、すなわち誰がやっても時間当たりの生産性が変わらない仕事が多く、長時間働けば働くほどアウトプットが増えたためです。

一方、欧米では70~80年代に製造業がボロボロになったため、サービス業がメインの産業構造へとシフトしました。サービス業は製造業と違い、長時間働いたからといってアウトプットが増えるとは限りません。しかも、プロスポーツや芸能界などでは典型的ですが、同じ時間働いて1億円稼げる人もいれば、1000万円しか稼げない人もいます。つまり、労働生産性が「変数」化したのです。この変化を機に、働き方も時間重視から生産性重視へと徐々に変化していきました。

日本でも90年代以降、製造業が次々に海外に流出していきました。本来は、そのタイミングで時間を基本にした働き方から生産性を基本にした働き方へ変える必要があったのですが、いまだにかつての量産型製造業時代の働き方を続けているのが現状です。そのために、依然として残業時間や有休消化率などが議論の中心になっているのです。

また、日本型雇用慣行として今も残っている年功序列や終身雇用なども、生産性の観点からすると、現状にそぐわない制度と言えます。かつてのように、将来にわたって同じビジネスが続くのであれば、経験を積んだほうが有利かもしれません。

しかし、今日のように激変する環境の中で新たなビジネスが求められる状況では、過去の経験がむしろ邪魔になることもありえます。こうしてみると、日本企業は人材マネジメントを生産性の観点から論理的に考えるところが弱いと言えます。