【藤井】アメリカ大統領選でヒラリー・クリントンが批判されたのも、彼女が恵まれた人間だからです。教育もあり、夫が元大統領だった。つまり、彼女は既存のエリートなわけで、リベラルというのは、欺瞞なんじゃないかと批判されました。リベラルの欺瞞を指摘するのは、世界的な傾向なのだと思います。
【辻田】左翼の欺瞞に気が付いたからトランプに投票したとしても、あっちはただの大富豪です。「自己責任」と切り捨てられるだけで、助けてくれるわけではない。
日本の場合は、『戦争論』だけではなく、ネット文化との両輪でネット右翼が生まれたと考えています。それまで政治を語るのはめんどくさいことで、直接人と会わないといけませんでした。しかし『戦争論』を読んだ人が、すぐに匿名で2ちゃんねるに書き込めるようになりました。人に会わずとも意見できるようになったのです。
右派団体を見ても、1997年にできた日本会議は家族主義などの面で昭和的な価値観が濃厚でした。これに対し、『戦争論』と2ちゃんねる誕生後に、チャンネル桜や、在特会といった平成的な右派団体が出てきます。
【藤井】今の小林よしのり氏はネット右翼に対しても安倍政権に対しても批判的ですよね。
【辻田】戦後リベラルの欺瞞は一貫して批判していると思いますよ。ただ小林さんはメディアの中でマジョリティに対してあえて反対のことをいう立場です。ネット右翼が強くなったら、それを叩くのは当たり前で、ある意味では一貫しているのだと思います。
継承されなかったオールド右翼の「寛容」
【藤井】平成の時代の右翼の残念なところは、一方で生活保守的な論点を提起するそぶりを見せつつも、結局はマイノリティーの強者ではなく、マイノリティーの弱者叩きに回った点です。ネット右翼は、生活保護受給者を叩き、在日コリアンへのヘイトスピーチを増幅させました。過去にさかのぼるなら右翼は必ずしも弱者・貧者叩きをしませんでしたよね。戦前の右翼にはアジア主義もあったわけで。でもそうした感覚が平成の右翼にはない。
【辻田】右翼には在日コリアンの人も多かったですし、全部ではないにせよ、社会から少しずれた人も包摂する寛容なところがありました。アジア主義も戦前は基本的に邪魔者扱いで、国策になったのは戦中の一時期の話です。そういった意味で右派の歴史がうまく継承されていないと感じています。