【藤井】彼らの「愛国」が本当に国家を大切に思っているのかどうか疑問です。靖国でコスプレをしている人たちに対して、ある種ファッション的なものを感じます。昭和には「ファッション左翼」という言葉がありましたが、まさに「ファッション右翼」です。
国家を真剣に考えるのであれば、もっと日本の歴史を勉強するでしょう。そうなると今の安倍首相がいっている「美しい国」がめちゃくちゃであることに気が付きますよね。
【辻田】新しい「美しい国」をつくるのならともかく「取り戻す」といっています。なにか取り戻す対象があるらしいのですが、それが具体的になんなのかはわからない。それが露呈したのが森友学園の事件です。あの「教育勅語」や「御真影」の扱い方を見ていると、戦前でもなんでもない、ただの愛国コスプレです。それを保守系の論者だといわれている人たちが推薦していた。結局「ビジネス右翼」なのだと思います。
ネットと結びついた現在の右翼
【藤井】戦中、戦後を見てもビジネスと右翼のつながりは強いですよね。現在の状況だけを見ていると、素朴に日本が好きな気持ちがあるのではなく、愛国心をビジネスの道具として使っているのではないか? と感じてしまいます。ビジネスと右翼はどう関係しているのでしょうか。
【辻田】戦前の右翼は反体制的なところがありました。たびたび政治家や経済人を殺害していますしね。時に帝国主義に反対し、アジア主義を唱えていた。ですが戦後の右翼は基本的に親米で、体制と結びつきます。彼らはフィクサーのような存在であまり表舞台に出てきませんでした。現在の右翼はネットに結びついている。みんな会員制交流サイト(SNS)をやっていて、ネットで動員をかける。ビジネスと右翼の結びつきは変わっていると思います。
【藤井】ネット右翼と呼ばれる人たちは、行動する右派からYouTubeで小銭を稼ぐ人、ネット・リテラシーがまったくなく、フェイクニュースをうのみにしてしまう人たちまで、さまざまです。その意味で、ネット右翼は、空虚な記号といえるでしょうね。空虚な記号であるがゆえに、動員力があるのかもしれません。
政治学者
1973年岐阜県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科政治学専攻博士後期課程退学(単位取得)。現在、同大学院ほかで非常勤講師として教鞭をとる。近年の研究の関心は、現代民主主義理論。共著に『公共性の政治理論』(ナカニシヤ出版)、共役に『熟議民主主義ハンドブック』(現代人文社)など。
辻田真佐憲(つじた・まさのり)
作家・近現代史研究者
1984年大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒、同大学院文学研究科中退。現在、政治と文化芸術の関係を主な執筆テーマとしている。著書に『空気の検閲』(光文社新書)、『文部省の研究』(文春新書)、『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)など多数。