決済事業はマーケットリーダーになるか、ならないかの二択

「われわれのゴールは、あくまでキャッシュレスなんですね。なぜ物理カードをはさんだかというと、加盟店もユーザーもモバイル決済への準備ができていなかったから。カードを作らせていただき、お金はLINE Payの中にあるけれども、ちゃんと既存のインフラで決済ができますよ、ということを見せながら口座数を増やしつつ、その後ろで加盟店開拓を進めたり、システムを整えたりしていた」

「そのうち、いろいろなプレーヤーもメディアも含めて世間全体がようやくモバイル決済に向けて動き始めた。社内でも繰り返し言っているのは、『決済事業というのはマーケットリーダーになるか、ならないかの二択しかない』ということ。中途半端な戦いは何一つ意味がない。限られた資源の中、どういう手順でいつカードを切るか。それがちょうど今だった。機は熟したということで、『決済革命』を大きく掲げたのです」

2018年4月時点で、LINE Payの口座を持つユーザー数はグローバルで約4000万人となり、国内での決済対応店舗(一部自販機なども含む)は9万4000カ所まで増えた。これを、今回の決済革命で年内に100万店舗まで増やす計画だ。

「第2のLINEをつくる挑戦」

LINEは7月30日にLINE Payの記者向け説明会を開催し、現在開発中という独自の決済端末を披露した。そこでホストを務めたLINEの決済子会社、LINE Payの最高戦略責任者(COO)を務める長福久弘は、こう語った。

「社内での合言葉は『第2のLINEをつくる挑戦』です。(メッセンジャーアプリの)LINEが成長した理由。それはデバイスの変化をいち早くキャッチし、それにマッチしたコミュニケーションの方法を提供したからです。今、決済市場で起ころうとしているパラダイムシフトの波は、LINEがコミュニケーションインフラになり始めたときの状況と非常によく似ています」

国も重い腰を上げた。今年4月、経済産業省は「キャッシュレス・ビジョン」を公表。「キャッシュレス推進は、実店舗等の無人化省力化、不透明な現金資産の見える化、流動性向上と、不透明な現金流通の抑止による税収向上につながるなど、国力強化につながるさまざまなメリットが期待される」とし、2025年までにキャッシュレス比率を40%まで高める目標を掲げた。

QRコード決済はすでに強豪ひしめく状況

LINEにとって最適なタイミングが今であることはわかった。だが、QRコード決済に着目する企業はLINEだけではない。

QRコード決済は、前出のメタップスに加え、楽天の「楽天ペイ」や、NTTドコモの「d払い」も対応している。また7月末にはソフトバンクとヤフーが共同で、コード決済を手がける子会社「PayPay」を設立。8月29日にはアマゾンも「Amazon Pay」を発表するなど、にわかに動きが激しくなっている。メルカリなども参入に向けて準備をしているとされる。

すでに、レッドオーシャンの様相を呈しており、強豪ひしめくなかで、LINEに勝ち目はあるのだろうか。(文中敬称略・後編に続く)

井上 理(いのうえ・おさむ)
フリーランス記者
1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BP社に入社。以来、IT・ネット業界の動向を中心に取材。日経ビジネス、日経ビジネスオンライン、日本経済新聞電子版などの記者を経て、2018年4月に独立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式』(日本経済新聞出版社)、『BUZZ革命』(文藝春秋)。
(撮影=永井 浩)
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