狂気とも言える施策、「まさに今が最適」

かつて韓国で爆発的に普及していたスマホ向けメッセンジャーアプリ「カカオトーク」を参考に、いち早く日本に適したメッセンジャーアプリを開発して前代未聞の成長を遂げたLINE。「アジア版タイムマシン経営」とも言うべきお家芸を今度は決済でやってのけようとする試みは、極めて同社らしい。

そのタイミングも周到にはかっていた。じつは、LINEは2014年12月からLINE Payを開始しており、ローソンや居酒屋チェーン店の金の蔵、レンタルCDやDVDを展開するゲオなど、一部の加盟店ではQRコード決済も始めていた。ただ、積極的な販促を行うなどはせず、あえて勝負には出ていなかった。

「手数料0%、ポイント還元率3.5~5%」という狂気とも言える施策で一気呵成に勝負をかけるに、まさに今が最適なタイミングなのだと舛田は言う。

QRコード本格展開まで「4年」もかかった理由

「ここまで動かなかったのにはいくつか理由がありまして。まず、この数年間はメッセンジャーを“玄関”に、音楽・ニュース・マンガ・デリバリー等のサービスを複合的に展開する『スマートポータル戦略』に注力していた。広告事業が想像を上回る速度で成長するなど、戦略上間違っていなかった。昨年はAI事業の立ち上げにもフォーカスしました」

「一方で金融事業は、われわれにとって未知なる領域ですし、専門性が高いので当然そこには労力もコストも時間もかかる。かつ、最初からこの国の構造を変えようと思っていたのですが、そのためにはちゃんとステップを踏んでいく必要があった」

「例えば、LINE Payという口座を持っているユーザーさんが一定数いない限りは、いくら『コード決済が大事です』と唱えたところで、誰も何も反応しない。それに、今でこそ皆さん中国の状況をご存じだからこそQRコード決済に反応してくださるけれど、当時はメディアも金融業界もみんな非接触IC決済の時代だと言っていた。2014年に『手数料ゼロ』と唱えても、おそらく誰もついてこられなかったと思います」

LINEがLINE Payを発表したのは2014年のこと。当初はJCBと提携し、前払い式のプリペイド(物理カード)を発行。JCB加盟店の店頭で決済するところから始まったが、舛田は「あのカードは最初から過渡期の施策だった」と明かす。