グーグルに見られる組織フラット化は、欧米組織のグローバル戦略のひとつです。一方、日本企業の組織運用では、国内では「和」を基調としたチーム力を守りながらも、半面グローバル市場では多数を占める「個人主義型組織」の個別行動パターンにスイッチできる器用さと能力が必要になります。北米や中国の企業では、上司が新しい仕事を部下に課す場合、どんなに褒められても思いっきり嫌な表情を見せ、快く引き受けない従業員が大勢います。このような人材を動かすためには、なんらかの「インセンティブ機能」を仕掛ける必要があります。
日本企業のように能力資質の標準が諸外国に比して高く、柔軟な職務範囲を持つ場合には、組織の中にヒエラルキーのある「昇進」ポストを維持することが重要です。つまり、長期的に努力しチャレンジする機会を与え、将来まで見据えて社内に人材を蓄積しながら、個人を縛らない評価制度で運用すると、従業員は自主的に前に進みます。そうすると日本企業では、個人に賛同して生まれるプロジェクトや仕事に情熱のある従業員が新たな市場価値を創出するなど、他国の組織とは違った独自性ある成果の出し方をするようになります。
昨今日本の組織改革は、個人主義組織の行動をもとに考えられた欧米コンセプトや手法の輸入が多く、職務の個別化を加速させました。「組織が狂うと元に戻すのに10年はかかる」といわれます。筆者は欧米組織や台湾組織でのマネジメント経験を踏まえ、各地域の従業員特性を強みとして組織運用に活かすことが大事であると考えています。グローバル戦略とは、ある望ましい組織行動をモデルとして標準化し、その行動を「一つの完結した組織シナリオ」として世界各地で運用することにほかなりません。日本企業のように独自性が高い場合は、例外として強みを死守することが大切と考えています。
今後どのようなグローバル市場戦略になっても、日本企業の強さは「組織力」にあることを忘れてはなりません。筆者はかつて世界各国のマネジメントが集うセールスコンファレンスに幾度か参加し、ともに自己研鑽する中で、欧米人と比べ日本人が集団から個人になったときの弱さを、内面的外面的にいろいろ発見してきました。生産性ではドイツ企業に大きく離され、収益性では韓国企業と鼻の差となり、世界市場で各国企業が勢いを伸ばしてきている中、組織力を弱めた日本企業は国際競争力も低下させています。
世界的な変化の潮流の中で今後どうすればいいのでしょうか。筆者は、人事制度では賃金体系のインセンティブ機能と長期的な昇進昇格ヒエラルキーをいま一度見直すと、職場の不協和音は改善され、組織の活性化が図れると考えています。また組織運用では、深く高い専門能力と優れた対話力を兼ね備えた個人を「文殊の知恵」チームに結集し、組織力として集約すれば、日本企業は間違いなくグローバル市場で高い成果が見込めると予測します。逆境の金融危機の中で勢いを盛り返すためにも、日本企業は自社の強みを活かし、グローバル組織へとシフトできるように、組織改革にはいち早く着手してもらいたいと願っています。
注と参考文献
(*1)橘木俊詔・伊藤秀史編著『査定・昇進・賃金決定』(*2)日置弘一郎ほか著『日本企業の「副」の研究』(3)SPCCLABO企業従業員調査ならびに研究調査分析IMD/W EF International Competitiveness 2007 OECD Compendium of Productivity Indicators 2008