個を尊重するマネジメントは、日々生じる問題も解決に導いた。燃費と使いやすさと楽しさ、そして、何より低価格。プロジェクトはいたるところで二律背反にぶつかった。特にコストの制約は部門間の衝突を引き起こした。互いに譲らず、ケンカ寸前の議論。PL同士では解決できなくなると関のところへやってきた。

「LPLが決めれば簡単です。でも、こう問いかけました。君たちは全体の機能としてどうありたいと思っているのか。部品は組み合わさって大きな機能になる。それを達成するため、自分たちはどうあるべきか。上位概念に立ち返り、部分最適ではなく、全体最適の議論をする。最後は基本のコンセプトに立ち返る。すると、譲れる部分が見えてくる。試乗会で目指すクルマのイメージを共有したのはこのためでした。時間はかかっても、僕は納得し合うほうを大切にしました」

例えば、タイヤの選定。フィットと共通化する案に対し、燃費の測定を担当する部門から、より燃費を下げられるタイヤの使用が強く求められた。どちらをとるか。最後は「普通のクルマ」をつくる基本コンセプトから、フィット用を採用。譲歩してもらった燃費測定部門には、別の部分で低燃費化を図るよう約束した。

自律分散をベースにしながらも、全体の中で個をとらえ直し、個と全体のバランスをとる。このとき、求心力の源泉となったのが、創業者本田宗一郎の言葉だった。ホンダの開発プロジェクトではメンバーが一つ部屋に集まる大部屋方式がとられる。その大部屋のスクリーンがわりの白い壁に、関はこう手書きした一枚の紙を掲げた。「得手に帆あげて」――誰もが得意分野で最高の仕事し、知恵と力を合わせてよいクルマをつくる。