「僕が求めたのは、技術の専門性ばかりではなく、人間性でも得手に帆あげてくれと。調整が得意な者は不得手な者をカバーして意見を引き出してやる。専門性で互いに壁ができたら人間性でラップする。会議で壁に資料が映されるたびに、メンバーはその言葉を目にしたのです」
キックオフから3年後の2009年2月、発売された二代目インサイトは、189万円の低価格と1リットルあたり30キロの低燃費を両立。200万円を切る価格が話題を呼び、4月の新車販売ランキング(軽自動車を除く)ではハイブリッド車初の首位を獲得した。発電用と駆動用の2つのモーターを使うプリウスと違い、一つのモーターを併用するホンダのシステムは構造がシンプルで小型軽量が特徴だ。フィットなど小型車への展開が注目される。
そのフィットも小型車でミニバン並みの広さという二律背反を追求した。荷室をどこまで広くするか、メンバーたちはヨーロッパの街で実際に買い物をし、実生活を直接経験するところから始めた。
現場で現物に触れて現実を体感しながら、目指すクルマのイメージを全員で共有し、コンセプト化する。ボトムアップで問題を解決しながら、衝突したら上位概念で矛盾を統合する。そのとき、創業来のDNAが求心力の源泉となる。それがホンダ流であるとすれば、インサイトもまた、ホンダらしいクルマといえる。
「非常識なことではなく不常識なことを、不真面目ではなく非真面目にやれ」と宗一郎はいった。非常識は排除され、不常識は次の常識になる。セダンとワンボックスを両立させたオデッセイ、商用車並みの広さを持つステップワゴン、そして、フィットも不常識なクルマだった。低価格ハイブリッド車という不常識に挑戦した関たちの試みも次の時代の「普通のクルマ」を予感させずにはおかない。