本格的な経済危機に転じるリスクに警戒

通常、通貨危機に陥った国は、国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請し、経済の安定を図ることを優先する。ただIMFから支援を仰ぐと、同時にさまざまな構造調整策(コンディショナリティー)が課される。欧米と対立するエルドアン大統領が構造調整策を受け入れるとは考えにくく、IMFへの支援要請は最後の手段になるかもしれない。

こうした中で警戒されることは、通貨危機が本格的な経済危機に転じるリスクだ。この段階でIMFに金融支援を要請しても、焼け石に水になってしまう恐れがある。危機から脱するためには財政と金融を強烈に引き締めなければならず、トルコ国民は強い痛みを負うことになる。

先に述べたように、トルコは地政学上の「要」である。そのトルコが本格的な経済危機に見舞われた場合、中東の秩序が混乱する公算が大きい。リスクオフの流れの中で各国の株価が急落し、供給不安が意識されて原油の価格も高騰するだろう。欧米が進める金融政策正常化の流れもストップする。

日本経済もリスクオフの円高で輸出や企業業績が悪化する

当然ながら日本経済も悪影響を被る。具体的には、リスクオフの円高により輸出や企業業績が悪化する。また株安や原油高は消費の重荷になる。戦後最長の景気回復が視野に入る日本経済であるが、景気の足腰は決して強くない。金融緩和や経済対策の余裕にも乏しく、トルコ発のリスクオフの流れが景気後退につながる展開は十分予想される。

先のグローバルな金融危機から10年がたち、国際金融市場は不安定な地合いである。今般のトルコの通貨危機は新興国通貨の急落を引き起こしたものの、グローバルな金融危機のトリガーにはならなかった。ただトルコの通貨が近いうちに再び暴落すれば、グローバルな金融危機につながるかもしれない。引き続き動向を注視したい。

土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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