米国の金融政策正常化で繰り返される新興国の通貨安

昨年来、外為市場で“BEAST”という言葉が駆け巡っている。

英単語で「獣」を意味するわけだが、ブラジルとエジプト、アルゼンチン、南アフリカ、トルコの5カ国の英語表記の頭文字を取ったもので、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策の正常化に向かうという観測が高まる中、通貨が売られやすい国々をまとめた造語だ。

2022年1月20日、アンカラの大統領府で行われたエルサルバドル大統領との記者会見で演説するトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領。
写真=AFP/時事通信フォト
2022年1月20日、アンカラの大統領府で行われたエルサルバドル大統領との記者会見で演説するトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領。

かつての2014年にも、FRBが金融政策の正常化を進めようとした際に“フラジャイル・ファイブ”という言葉が生まれた。その時はブラジルとインド、インドネシア、トルコ、南アフリカの5カ国の通貨が売られやすいとされたわけだが、今回はそこからインドとインドネシアの2カ国が抜け、エジプトとアルゼンチンが名指しされたことになる。

こうした諸国に共通する特徴は、短期資本の動きに脆弱であるという点だ。政府の信用力が低いために、海外からの借入はおのずと短期物が中心となる。

そのため、FRBが金融緩和を修正して米国に資金が還流する際に、通貨が売られやすい構造になっている。取り得る防衛策は利上げであるが、これらの国々はそれが政治的に難しいという特徴もある。

BEAST5カ国の為替レートの推移(対ドル、週次)

BEAST5カ国の中でも、アルゼンチンとトルコが通貨安の筆頭だ(図表1)。すでに両国とも趨勢的な通貨安が根付いて久しく、人々は資産防衛のために多額の外貨(特に米ドル)を持っていることで知られる。

そのうちトルコで、昨年末にある奇策が取られて、通貨リラの相場が一時急騰した。トルコは一体、どのような政策をとったのだろうか。