財政出動と財政赤字…大統領の奇策で悪循環に陥ったトルコリラ
リラの買い支えに要する外貨準備高は、既に市中や外国から借り入れている状況だ。そうした中で、通貨を防衛し得る唯一の対抗策は利上げしかない。
分かり切っていることだが、中銀は利下げこそ物価の安定につながると主張して憚らない大統領の意向を汲まざるを得ず、利上げという手段を取り得ない。結局、リラは売られ続けることになる。
他方で、昨年末に政府が導入したリラ建て預金の保護措置は、財政を着実に蝕むものでもある。リラを支えるための財政支出が財政赤字を広げ、それがさらにリラ売りを誘うという負のスパイラルに入りかねないわけだ。
それでもエルドアン大統領は現実を直視せず、リラ売りは欧米による陰謀であるという自説を堅持しているというのが実情だ。
いずれにせよ、米国の金融政策の正常化というメガトレンドに抗うことは容易でない。その中でも通貨安が見込まれるBEAST5カ国のうち、トルコの立ち位置はアルゼンチンと並び、かなり危ういと言えよう。
年末にトルコが採った奇策の賞味期限は短く、結局はなけなしの税金を無駄遣いしたにすぎなかったという帰結を迎えると予想される。
失われた通貨の信認を取り戻すのは困難…問われる「円の信認」
なお新興国の通貨は、日本の個人投資家に人気が高い金融商品でもある。
特にFX取引など投機性の強い取引で人気は高いが、米国の金融政策正常化というメガトレンドがある以上、相場の乱高下で多額の損失を被るリスクが大きくなっていると言えそうだ。このことは、足元で下落傾向を強める仮想通貨についても指摘できよう。
年末の相場急騰で儲けた投資家は、俗にいう「2匹目のドジョウ」を狙いたくなるはずだ。とはいえ、繰り返しになるが年末のリラ相場の急騰は一時的なものであり、今後もリラ相場は下落基調で推移する。
FX自体は認められた行為だが、投機的な動きは相場の乱高下を誘発するものであり、道義的な観点からは見直されて然るべき取引かもしれない。
リラの動きは、失われた通貨の信認を取り戻すことの困難さを物語る。トルコと日本を単純に比較することはできないが、多額の対外純資産を抱えているにもかかわらず、日本はかつてに比べると円高になり難い構造になっている。
今まで軽視されてきた「円の信認」という論点について、否応なしに考えざるを得ない時代が訪れないとも限らない。