リラ安を受けて進む外貨預金の増加

リラ安の悪影響は物価の高騰という形で既に現れている。貿易赤字国であるトルコにとって、リラ安に伴う輸入物価の上昇は生活コストの増加を意味する。最新7月の消費者物価は前年比15.9%上昇と足元で伸びが急加速しており、トルコ中銀が掲げる物価目標(5%)をはるかに上回っている。

物価の上昇を受けて消費も悪化している模様だ。トルコ自販連によれば、7月の新車販売台数は前年比36%減と前月(同39%減)と同様3割以上の減少が続いた(1~7月の累計では前年比16%減)。リラ安に伴い新車の価格が上昇し、消費者の購買意欲をそいでいるものとみられる。こうした経済への悪影響は今後より強く出てくるだろう。

こうした中で、市民は資産防衛のために外貨を積極的に購入している。中銀のデータによれば、国内の銀行の外貨預金はこの4年で約4倍に膨れ上がった。リラ安が進む中で市民は外貨預金の積み立てにいそしんでいたと考えられる。なお一部報道によると、8月10日の相場でリラが急落した際、大勢のトルコ市民が両替商に押し寄せたという。

通貨の信認が失われればトルコ経済は大混乱に陥る

90年代のハイパーインフレの経験から、トルコには元々外貨預金(主に米ドルやユーロ)で貯蓄を行う習慣がある。そしてトルコ市民は、銀行預金だけではなくいわゆるタンス預金という形でも外貨を貯め込んでいると言われる。この傾向は足元の通貨危機を受けて急速に強まっていると考えられる。

外貨は今のところ貯蓄手段として機能しているとみられるが、これが日々の決済手段にまで用いられるようになると、収拾がつかない事態に陥る。金融政策は国内の通貨を通じて波及するが、そのメカニズムが遮断されることになるためだ。この機能を回復することは容易ではなく、それこそトルコ経済は大混乱に陥ることになる。