38度超の屋外でなぜ試合を強行するのか?

そもそもスポーツとは何なのか。学校スポーツとは何のためにあるのか。スポーツで勝つことの意味は何なのか。ここを改めて考え直し、これまでの意識を根本的に変えなければ、桜宮高校の改革は不可能だと僕は考え、そのための支柱として、全日本女子バレー元監督の柳本晶一さんを特別顧問に招聘した。

その柳本さんが桜宮高校に植え付けようと始めたのが、「プレーヤーズ・ファースト」という意識・理念だ。この言葉はその文字通り、「選手第一主義」を意味する。勝ち負けよりも、選手が心の底からスポーツを楽しみ、スポーツを通じて成長し、人生を豊かなものにしていけることを第一に考え、指導者は選手をサポートすることに徹するという考え方である。「兵士養成プログラム」からの完全なる脱却である。

この「プレーヤーズ・ファースト」の理念から見ると、今の高校野球および甲子園には、非常におかしなところが沢山ある。いまだに「兵士養成プログラム」を引きずっているとしか思えないところが多々ある。

第一に、毎年真夏の炎天下で、あれだけの過密日程で長時間の試合を行うこと自体がありえない。特に今年の夏は、日本各地で連日最高気温38度を超える、異常な暑さが続いている。熱中症で多くの人が病院に搬送され、何十人も亡くなっている。常識的に考えても、これだけの暑さの中で、無理して試合を行う理由は何一つない。プレーヤーズ・ファーストの観点から合理的に考えれば、ドーム球場を使えばいいだけの話だ。甲子園の近くには京セラドームもある。屋内で試合を行うことになれば、選手だけでなく、観戦する多くの観客にとっても身体的な負担を大きく減らすことができる。

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炎天下での試合問題に加えて、甲子園大会では試合の密度も大問題である。現在のプロ野球では、ピッチャーは一回登板すれば、中5日は原則休養することになっている。それだけ投球がピッチャーの肩・肘に与える負担は大きく、連投すれば選手生命が極端に短くなることが、科学的に明らかとなっているからだ。しかし高校野球では、一人のエースが何試合も続けて連投することが珍しくない。

成長過程にある高校野球の投手が、連日肩や肘を酷使して投げ続けることで、将来の選手生命を縮めている、という指摘は昔からあった。これもプレーヤーズ・ファーストの理念で考えれば、明日にでも改めるべきことだ。「1試合投げたら1週間は登板できない」「1試合に○○球以上は投げられない」といった、投球規制のルールを定めればいいだけの話だ。

こうなると、投手を何人も抱えることができる学校は少ないだろうから、必然大会日程は長期的なものになる。しかし選手第一に考えるなら、それでいいはずだ。灼熱の真夏に、わずか2~3週間で優勝校を決定する方式にする理由は、夏休みという期間を使って、大会を一気に盛り上げようとする運営者側、広報者(メディア)側の都合しか思い浮かばない。

さらに穿った見方をすれば、夏の甲子園(選手権大会)と春の甲子園(選抜大会)という二つの大会を1年の間に無理やり行うために、真夏の間に選手権大会を完結させているとしか思えない。まさに夏は朝日新聞、春は毎日新聞の権利を守ることであって、これは朝日新聞ファースト、毎日新聞ファーストになっている。