ラフ・プレーについて日本大学アメリカンフットボール部の前監督や前コーチは直接的な指示を出したのか、出さなかったのか。当人たちは否定したものの、第三者である関東学生アメリカンフットボール連盟の規律委員会は「指示していた」と認定。一方、公文書の書き換え問題で内部調査の報告書を出した財務省は、安倍晋三首相の発言が改ざんのきっかけだったことを否定した。ふたつの問題の共通点とは。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(6月5日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

日大問題と財務省文書改ざん事件の共通点

日本大学の対応がグダグダで、アメフト部の前監督内田正人氏は、学校法人日本大学の常務理事を辞任することになった。関西学院大学の被害学生と日本大学の加害学生との間には和解が成立し、被害学生側は加害学生が刑事処分に付されないよう意思表明し、今は、内田氏、井上奨(つとむ)前コーチの刑事手続きと、田中英寿理事長の対応の悪さに焦点が当たっている。

写真=iStock.com/solidcolours

内田氏や井上氏は、ラフ・プレーを直接指示したことはないと主張していたが、関東学生アメリカンフットボール連盟の規律委員会は、内田氏の主張を虚偽と認定。内田氏や井上氏が、ラフ・プレーを指示したことを認定した。

これが第三者的な者が調査をすることの威力でもあり、恐ろしさでもあるんだよね。第三者が調査すると単なる調査にとどまらず、事実認定までするのが普通。当事者の主張がどうであれ、第三者が収集した事実や証拠を基に、事実関係がどうであったのかを判断しちゃうんだ。つまり裁判官と同じこともやってしまう。

調査は検察官の捜査みたいなものだから、検察官と裁判官が合わさったようなことをするのが第三者調査。

安倍政権が森友学園問題や加計学園問題で第三者調査を避ける理由もここにある。昨年2月に森友学園問題が国会で浮上して、安倍晋三首相は3月には会計検査院で検査してもらう方針を示した。会計検査院は憲法上、内閣から独立した組織であるので(憲法90条 会計検査院法1条)、第三者調査のような感じがするけど、事実の全体解明をするための機関ではない。あくまでも違法・不適切な「会計」を「指摘」するまでが仕事。当事者が色々な主張をしているときに、事実はどうであったのかをズバッと認定することはやらない。

だから会計検査院は森友学園問題について、国有地売却の際の値引きに根拠が不明確であることの「指摘」までしかできなかった。財務省は相も変わらず適正な手続きでの値引きだったと言い張るので結局事実解明は藪の中。会計検査院は、自ら集めた証拠を基に、財務省の主張に反してでも、事実はこうだ! とズバッと言い切ることはできない。

検察の捜査が「究極の第三者調査」ではない理由

また、政府与党や自称インテリの一部が、検察の捜査こそが究極の第三者調査なのだから、あえて第三者調査をする必要はないと主張し続けていた。今般、検察は森友学園問題について財務省の官僚を全員不起訴とした。値引きや文書改ざんについて違法性を認めなかった。このことを基に、政府与党や政府与党を擁護する自称インテリたちは、「ほら見てみろ、森友学園問題は何の問題もなかったんだ!」とドヤ顔になっている。

これは安倍政権の作戦勝ちのところがある。世間は、検察が不起訴にしたことで、森友学園問題には何も問題がなかったと感じるかもしれない。しかし、それは違う。検察はあくまでも刑事罰を下すことができるかどうかを判断したまでで、今回は刑事罰は下せないという結果になったに過ぎないんだ。

刑事罰を下すには、よほどの違法性が存在することが必要になる。ちょっとしたミスで刑事罰を下すわけにはいかないからね。

今回は、あくまでも刑事罰を下すだけの違法性はなかったというだけで、会計検査院が指摘したように、国有地売却の際の値引きは杜撰極まりなかったことに間違いはない。後に行われた決裁文書の改ざんや、記録の廃棄も杜撰極まりない事務処理で言語道断だ。検察の不起訴処分によって、これら財務省の杜撰さに対する批判が、全て吹っ飛んでしまうようなことがあってはならない。不起訴処分は、あくまでも官僚個人に刑事罰を下すほどの違法性がなかった、ということだけあって、財務省の杜撰な行為は政治行政上、国民を裏切ったとんでもない行為であったことを忘れてはならない。

もし森友・加計学園問題が、政府与党とは無関係のいわゆる第三者が調査していたらどうなっていたか? 安倍政権の主張とは異なる事実関係をバンバン認めていたかもしれない。

(略)