引きこもっていた人にどう勉強を教えるのか

【田原】不登校の子どもたちが通うフリースクールがありますが、あれとは違うんですか。

【安田】フリースクールは、子どもたちを「そのままでいいんだよ」と受け入れて居場所を与えてあげることに意義があります。一方、僕がやりたかったのは、居場所だけでなく、将来、自立する力をつけてあげること。たとえば小学校から不登校で小数や分数の計算ができなければ、就ける仕事がものすごく限定されてしまう。必ずしも大学に行く必要はありませんが、大学や専門学校に行けば選択肢が広がるので、僕たちの塾はそこを目標にしています。

【田原】引きこもっていた人にどうやって勉強を教えるんですか。

【安田】引きこもりの人がいきなりやる気になることは、現実的にほとんどありません。なんとなく気分がいいから塾に問い合わせてみたと思えば、次の日はまたやる気を失っていたりするのが普通です。だから長期戦で、少しずつ進めていく必要がある。たとえば相談に来たら、次に週に1回、塾に来られる状態を目指します。遅刻しつつも週1回通えたら、次は時間通りに来ることを目指す。そうやって小さなハードルを1つずつゆっくり越えていくと、いつのまにか元気になります。

【田原】なるほど。塾生はどうやって集めたんですか。

【安田】ホームページです。学校や大手予備校で挫折した人たちは、ベッドに寝転がってスマホでいろいろ検索をするんです。でも、これまで若者の福祉に関わってきた人たちはITに弱くて、ネットを通して彼らとつながることをあまり考えてこなかった。だが引きこもりの人たちに響くメッセージをWeb上で丁寧に発信すれば、人は必ず来るという確信がありました。

【田原】引きこもりの人たちにはどういうメッセージが響くんだろう?

【安田】一番大切なのは物語です。物語といっても、落ちこぼれが東大に入りましたというような成功ストーリーだけでなく、中堅大学や専門学校進学も含めたたくさんの「普通」の物語が重要だと思っています。

【田原】最初、何人集まりました?

【安田】はじめの1年はチラシを撒いていましたが、ほとんど効果なし。ホームページをきちんと立ち上げてから反応が出始めて、半年経たないうちに約10人集まりました。

【田原】先生はどうしましたか。先ほど聞いたやり方だと、マンツーマンじゃないと無理だ。10人を安田さんが1人で見るわけにもいかない。

【安田】はい。だから採用を急ぎました。講師はツイッターやフェイスブックで募集。当時で講師4人だったかな。うちの塾では勉強を教える以外にいろいろ注意しなくてはいけないことがあるので、引きこもりの人にかけてはいけない言葉などの研修を事前に行ってから現場に出てもらいました。

【田原】研修で教えられるようになる?

【安田】最初はわからないところも多いと思います。ただ、だいたい100回ぐらい授業をすると、いろいろな生徒に対応できるようになります。