20歳の大学3年生とは思えないほど立派な会見
ところで、駆け出しの新聞記者時代、先輩記者からたたき込まれたことがある。
感動し、次に疑う。これが記者の基本だ、と。
この基本にのっとって冷静に考察してみたい。相手選手にけがを負わせた日大選手の記者会見には心を打たれ、感動した。産経新聞は他紙に先駆け、記者会見翌日の5月23日付紙面の社説でテーマに取り上げ、こう表現している。
「これほど悲痛な会見を見たことがない。『顔を出さない謝罪はない』と自ら語ってカメラの放列の前に立ち、深々と頭を下げた。質問者の目を真っすぐに見ながら、必死に言葉を選び続けた」
たしかに20歳の大学3年生とは思えないほど、立派な会見だった。産経社説が書いているように、彼の言葉には説得力があった。
世論は彼をここまで追い込んだ日大アメフト部に大きな怒りを覚えた。みごとなまでに世論を味方に付けた記者会見だった。世論だけではない。新聞各紙の社説も彼の強い味方になっている。
彼をリードした人物は世論を熟知している
ただし、あの記者会見は成功しすぎた、という感想も持った。
タイミングは日大の先手を打つもので、絶好だった。記者会見の場所は、東京・内幸町の日本記者クラブだ。あの会見場は10階にあり、かなり広い。このため衆院選の前には、各党の党首が新聞社やテレビ局の編集委員などに向けた記者会見を開く場所でもある。格式があるだけでなく、多数の報道陣が詰めかけても混乱しにくい。
記者会見が成功したのは、第一に日大選手のアメフトに対する熱意であることは間違いない。だが、それだけではない。彼をうまくリードした人物がいるのだろう。その人物は世論というものを熟知している。大した人物である。