会社の同僚や、同じプロジェクトに携わる人々は、ともに力を尽くしあってミッションに取り組む「仲間」である。しかしネットニュース編集者の中川淳一郎氏は「本来、仲間であるはずの人間が、こちらの足を引っ張ったり、マウンティングしてきたりすることがある。身内の揚げ足取りほど愚かなことはない」と嘆く――。

同僚の“ネット炎上”にほくそ笑む社員

キリンビバレッジが4月26日にツイッターへ投稿した「#午後ティー女子」のイラストが「女性客をバカにしている」などとして炎上した。同社の「午後の紅茶」の購買女性を4つの類型にし、「あるある」的な特徴をイラストで描いた企画で、商品のPRキャンペーンの一貫だった。同社は5月1日、当該ツイートを削除のうえ、謝罪した。

写真=iStock.com/berekin

SNSの企業アカウントで炎上が起きた場合、対応に追われたり、批判の矢面に立ったりする直接の担当者たちにはたまらなくキツい経験となるが、一方で社内には、それを喜ぶ者も少なからず存在するらしい。今回のキリンビバレッジがそうだというわけではないが、大企業では取り扱う商品やブランドごとに事業部が設置されていたり、商品ごとにブランドマネージャーが存在したりと、縦割り意識の強い組織になっているケースがある。そのような企業では、自社の他ブランドに傷がついたとき、「よし、これで社内競争ではオレが優位になるぞ」と考え、ほくそ笑む人がいる──そんな話を耳にした。

トラブルなどに乗じて、誰かの立場が下がるかわりに、自分の立場をあげようとするさもしい姿勢は、ことネット炎上の対応時には持たないほうがいい。たとえばイケてる同期が、後に炎上することになるウェブのPR企画を立案し「これ、どう思う?」と意見を求めてきたとしよう。そんなとき「これは炎上する可能性があるから、もっと慎重な表現にするか、企画そのものを考え直すほうがいい」と真摯に伝えられるか、「ずいぶん攻めた企画とは思うけど、拡散しそうだし、いいんじゃない」と深く考えずに返答するのかによって、その後の展開は大きく変わってくる。

同僚がミスするほど、自分は出世競争で先行できる!?

ましてや「炎上したって知ったことか。コイツがポカをやらかせば、そのぶんオレが社内の出世争いで先行できる」と、わざわざトラブルを起こすリスクが高いほうへと促すような意識があるとしたら、実に愚かだ。炎上のせいで会社のウェブ施策全般が消極的になり、やりたい企画ができなくなるかもしれない。炎上の結果、企業イメージが悪くなれば、自分の担当する商品の売り上げが落ちてしまうかもしれない。会社の業績が下がれば、自分の給与にも影響が出てくるかもしれない。

要するに、社内の人間を「出世競争の“ライバル”」としてみるより、「ともに切磋琢磨しあう“仲間”」と意識しておくほうが、自分にとってもメリットが大きいということだ。

これは、相談する側も同様である。相手の指摘に対して「こいつ、オレに対するねたみから企画をツブそうとしているんだな」と邪推するより、「厳しい指摘だったけど、新しい視点に気づかせてくれた。ありがたいな。もう少し検討してみるか」と冷静に受け取るほうが、はるかに建設的である。少なくとも、ウェブ施策のような“企業対世間”という構図の案件の場合、社内の仲間内で足を引っ張るような風土があると、往々にして対応が遅れたり、打ち手を誤ったりしてしまうものだ。