衆人環視で外注スタッフをクサす編集者

あえて仲間のなかに敵をつくる、という事例では、最近、若いライター(便宜上、A君としよう)から聞いた「編集部所属の契約社員や派遣社員と、外部の制作スタッフとの軋轢」も、実に愚かしいと感じた。

A君が記事を執筆しているウェブ媒体に、新しい編集者が配属されてきた。事前に顔合わせなどもないまま、その突然やってきた編集者は、A君に「原稿を修正してくれ」と依頼するメールを次々と投げてくるようになった。よくわからないうちに編集担当が変わり、顔も知らない相手から「ここは、こう直せ」というメールが大量に届き、A君は面食らった。

それまでは、文章全体を書き換える必要があるような大幅な修正以外、編集者が適宜原稿を直していた。しかし、その新しい編集担当はどんな細かい修正でもライターに直させようとメールを入れてくる。しかも、執筆したライター当人だけではなく、関係者全員に同送し、経緯を丸わかりにするような形でだ。

その修正の内容が、また微妙なのだ。たとえば、ある女優が自分の出演する新しい舞台の公演開始をツイートし、「ワクワクしてきましたよ~!!!!!」と書いたとしよう。それをウェブ媒体で記事化した場合、「女優・○○が新たな舞台の開始と熱気の高まりにワクワク感を告白」といったタイトルが付けられることになる。

高圧的な新参者に困惑する関係者たち

しかし、くだんの新しい編集者は「実際に女優本人が書いたフレーズのとおり、正確に記すように」と高圧的に言ってくるのだ。私もネットニュースの編集を手がけるようになって長いが、経験的に、記事のタイトルはあまり長くないほうがいいと考えている。タイトルは要点を整理してコンパクトに伝えることを重視し、そのために多少の意訳や言葉の置き換えをおこなう。それは、ライターや編集者の腕の見せどころのひとつではないだろうか。

私からすれば、A君の付けたタイトルは決して悪いものではないし、彼がそう記述した意図もよくわかる。でも、新しい編集者は「女優・○○が新たな舞台の開始と熱気の高まりに『ワクワクしてきましたよ~!!!!!』」というタイトルに直すよう要求してきた。たしかに、「ワクワク」に関する表記は女優がSNSに記したままではないが、意味をねじ曲げたりしているわけでもなく、さらに記事中で正確な表記も紹介しているのだから、大した問題ではない。むしろ、文字数を減らしてわかりやすいタイトルになっていると評価すべきところだ。少なくとも、自分が編集担当なら何も問題視しない。それなのに、「!」の数が「5個」あるところも含めて正確に記すよう注意をしてくるのである。

新しい編集担当から、こうした微妙な修正依頼が頻繁に入るようになり、A君をはじめとしたライター陣は「前の担当と反応がまったく違うので、どう対応すればいいかわからない……」と困惑していた。