先輩の漏らした一言で野球に開眼
聞く力は選手にも欠かせません。私自身、監督やコーチ、他の選手の何気ない一言から気づきを得て成長につなげたことが何度もあります。
プロになって2年目。盗塁の練習をしていたときのことです。打者不在で、走者が必ず走るとわかっている状況で、投手が投げてからスタートを切れば、ほぼ100%刺されます。でも、私は「捕手の練習だから」と頑なに投手が投げてから走っていた。当然、アウトばかりです。その様子を隣で見ていた古田敦也さんが、こう漏らしました。
「真面目やなあ。投手が投げる前に走ったらええやん。盗塁なんやから」
これは目から鱗でした。それまで私は、与えられた枠の中で決まったことをきちんとやるという考えが強かった。それも大事なことですが、一方で失敗を恐れて大胆なプレーができていなかった。古田さんにクソ真面目なところを指摘されて、自分が足りないものにやっと気づいたのです。
この気づきを得てから、自分なりに根拠があると思ったときは、リスクを恐れずに思い切ってプレーできるようになりました。選手として、一段上のステージにいけた気がします。
プロになった当初は、人に話を聞くことが恥ずかしかった。教えを乞うには、まず自分の弱点を認めなくてはいけないのに、それができなかったんですね。古田さんの言葉にピンときたのは、当時、レギュラーの座をつかみかけていて、必死だったからでしょう。レギュラーになるためならば盗み聞きでもなんでもやるつもりでした。
本気で成長したいと思うなら、人は自然に人の話に耳を傾けるものです。そして聞いたことを1度は素直に受け入れて試してみる。そうやって試行錯誤を重ねる人が、もっとも早く成長するのではないでしょうか。
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1970年、大阪府生まれ。PL学園高校、同志社大学、プリンスホテルを経て、95年、ヤクルトスワローズ入団。アテネと北京の両五輪で日本代表のキャプテンを務める。2013年に引退。18年から東京ヤクルトスワローズのヘッドコーチに就任。