ノーガードの円、急激な円高の可能性
通貨危機は世界的に伝染する性質を持つ。そしてそれが世界的な金融危機につながるリスクも大きい。新興国を中心に世界的な通貨危機が生じ、金融危機に転じれば、投資家は低リスク資産である日本円を買うことになる。1ドル100円割れは当然であり、再び90円や80円を目指す展開になるだろう。
問題は、日本に円高を和らげる術が事実上残されていないことだ。強烈な円高が生じた時、それを和らげる手段は大きく2つある。1つが為替介入であり、もう1つが金融緩和だ。うち為替介入は、日本だけが行う単独介入ではあまり効果がない。米国や欧州の中銀と協力して行う協調介入でさえ、急速な下げ相場だと効果は限定的だ。
では金融緩和はどうかというと、日銀に残された弾はほとんどない。金利は下げようがないし、買い入れる国債も残っていない。つまり金融緩和を強化したくても、それを強化する術を今の日銀は持っていないのである。日本経済は急激な円高圧力に対して、実質的にはノーガードの状態にある。
通貨危機が生じれば、円高は一気に加速する
本来、円高は否定されるものではない。円高によってより安価に輸入や対外投資を行うことができるからである。とはいえ急激な円高が生じると、輸出や企業業績の悪化を通じて、景気に強い悪影響が及ぶことになる。
そもそも欧米の金融機関の多くは、日本円は主要通貨の中で割安であると評価しており、当面は円高気味に推移すると予想している。そうした基本的な流れがある中で世界的な通貨危機が生じれば、円高は一気に加速する。
繰り返しになるが、急激な円高を和らげる有効な術は、今の日本に存在しない。心地いいドル円の湯船に浸かっている傍らで、世界では通貨危機、金融危機、ひいては急激な円高の足音が強まっていることに留意したい。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。