そして、予想は当たったが……
『「先見力」の授業』(かんき出版)の原稿にそう書いたのは2017年12月です。脱稿後の2018年1月、京都大学のiPS細胞研究所で助教による論文のデータ改竄、捏造が発覚しました。
このケースは上述の3つ目と4つ目の問題点とも関係しますが、現在の若手教員の多くは任期付きポストの不安定な身分に置かれており、結果を出すことに対するプレッシャーが相当強くなっていることがその背景にあると考えられます。
iPS細胞研究所は再発防止策として、管理の強化や研究倫理教育の徹底を挙げています。しかし、これまで述べた通り、それだけでは実効性のある再発防止策にはなりません。
上で指摘した構造的な問題を解決しない限り、今後も研究不正は繰り返されるでしょう。日本の科学技術行政にそうした問題意識が全く感じられないのが大変残念です。
筑波大学システム情報系准教授
1970年大阪府生まれ。93年東京大学理学部生物化学科卒。98年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。NPO法人「言論責任保証協会」代表。著書に『学問とは何か 専門家・メディア・科学技術の倫理』『学者のウソ』など。近著に『「先見力」の授業』(かんき出版)がある。