「牛乳が睡眠の質を上げる」は本当か

1934年のある論文の中に、「コーンフレークと牛乳を食べることで、夜中に目が覚めることを減らせるかもしれない」という記載があります(※3)。この論文が発端かはわかりませんが、「眠れないときには牛乳を飲むと良い」という話が広く広まっているようです。実際に聞いたことがある方も多いのではないのでしょうか。

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では、本当に牛乳は睡眠の質を上げるのでしょうか? これまでの医学から言える結論は、「半分合っているけれど、半分間違っている」です。

70人の成人に8週間続けて、寝る前に500mlの牛乳を飲んでもらったという、フィンランドで行われた研究(※4)があります(毎日寝る前に500mlの牛乳を飲むのはかなりつらいと思うのですが、それでも飲んでもらったようです)。その結果はなんと、毎日の努力もむなしく、牛乳を飲むことと睡眠の質との間には関連性がない、というものでした。

しかし、牛乳をある牛乳に変えたところ、「睡眠の質が高まり、夜中に目覚める回数も減った」という結果が出ました。そのある牛乳とは、「夜にとれた牛乳」です。

先ほどの70人に、今度は夜にとれた牛乳を毎日500ml飲んでもらいました(この方たちは合計16週間も毎日500mlの牛乳を寝る前に飲んだということになります。ものすごい研究です)。すると、「睡眠の質が高まった」「夜間起きる回数が減った」と感じた方の割合が、有意に多くなったのです。

夜にとれた牛乳が、睡眠の質を上げるカラクリ

では、なぜ夜にとれた牛乳は睡眠の質を上げたのでしょうか。

その答えは、牛乳に含まれる「トリプトファン」と「メラトニン」という物質にあります。トリプトファンもメラトニンも、睡眠の質を上げる作用がある物質で、医薬品などにも応用されています。牛乳が睡眠の質を上げる可能性があるのは、これらが含まれているためと考えられています。

しかし、これらの物質の濃度は、昼に取れた牛乳と、夜に取れた牛乳とで大きく異なります。ある研究によると、夜にとれた牛乳は昼にとれた牛乳よりもトリプトファン濃度が25%多く、メラトニン濃度はなんと約9.8倍に達することがわかったのです(※5)
実際に動物を使った実験でも、昼間にとれた牛乳を飲ませた場合には血中のメラトニン濃度は上がらなかったものの、夜間にとれた牛乳ではメラトニン濃度が上昇していることが確認されました(※6)