【佐藤】前代未聞ですからね。とにかくつなげなければいけない。6区は運営管理車が付けられない区間だから気持ちがしっかりした子でないと持ちません。富永は最後の16番目にエントリーした子で一般生なんですが、普段でも冷静だし、頭が非常にいい。こいつに賭けてみようと。当日の朝の4時に大西と富永を私の部屋に呼んで、今回はチェンジすると告げました。
【黒木】理由は説明されたんですか?
【佐藤】いや、細かいことは一切言わなかったです。今回はこれでいくと。大西は涙を流していましたが、数時間後のスタート地点では気持ちを切り換えて後輩のサポートに回ってくれた。あれで救われましたね。優勝後の行事やご挨拶では走った選手よりも大西をメーンに立てるように心掛けました。
【黒木】8区で再びトップに立つと、9区、10区と見事に逃げ切りましたね。
【佐藤】8、9、10はもう完全に予定していた子です。全員、不祥事を起こした子と同じ2年生。2年生の汚点は2年生にそそがせてやりたいと思いました。
【黒木】1万メートルの記録を見ると9区の大津(翔吾)君も10区の高見(諒)君もそんなに強くない。でも当日の朝だったか、早稲田の高原(聖典)君が会ったら2人とも自信満々だったとか。
【佐藤】彼らは1万も5000もそう強くないですよ。でも20キロなら絶対に勝てると思っていました。たとえ相手が高原君だったとしても。箱根駅伝に15年携わっていますが、9区にエースクラスを置けるかどうかが一つの大きなポイント。順天堂の沢木(啓祐元総監督)先生がそういうお考えで、あそこは9区が絶対的に強い。私も9区には一番信用している大津を入れました。
【黒木】2人ともスタミナ型の選手?
【佐藤】そうです。崩れない。彼らはトラックレースではあまり名前が出てきませんが、ロード(レース)や駅伝では1回もポカがない。高校時代から。そういう子を採ってきているから、9区までに3分差をつけられていたらきついけれど、2分差までなら引っくり返せる自信がありました。
【黒木】10区の高見君、途中でラップが3分16秒程度だったので、あ、これは向かい風かなと思ったんですけど。
【佐藤】ああいう天候のときは東京に入るとビル風がまともに来るんです。あそこでヘタに速い動きをすると痙攣が起こる可能性がある。それでわざと溜めさせたんです。
【黒木】何キロぐらい溜めさせたんですか?
【佐藤】残り8.5キロは完全に。だから都内に入ってからは遊ばせていたんです。
【黒木】後ろから追いついてきたらスパートさせようという感じですか?
【佐藤】そうです。9区、10区はそのやり方で決まった。