【黒木】総合優勝がいけそうだと意識したのはどの辺りですか?
【佐藤】8区の遊行寺の坂で前に出たときに勝ったと思いました。あそこは早稲田の中島(賢士)君を15メートル後ろにしばらくつかせて、様子を見ていたんです。行くなら一気だと思っていましたから。そうしたら、渡辺監督が指示を飛ばしたんですね。「遊行寺で行くぞ」と。それがウチの選手の耳にも入って、あっちが出る前に動けば勝てると判断したんですね。ああいう競っている場面で、地名を言うのはダメ。「行け」でいい。そのあたり、彼はエリートだから正攻法で押そうと思ったんでしょう。私は「しめた」と。
【黒木】渡辺監督は現役時代も最初からぶっ飛ばして、後は筋持久力で持たせるみたいな走り方でしたからね。選手たちにもそういう走りをさせたところがあったんでしょうか。
【佐藤】まあ、エリート選手の指導者というのはああいう戦法になりますね。エリートの監督同士なら力と力の戦いになったでしょう。
【黒木】早稲田の敗因をどう思うか、聞いてきてくれとOB連中から頼まれまして(笑)。
【佐藤】あまり言いたくないんですけど(笑)、素人発想の作戦がはまったというのが本音です。相手がおかしいんじゃないかと思うくらいゆっくり走らせて、近づかせてからスッと引き離しにかかる。正統派の攻めではないから、あちらは戸惑ったんでしょう。力と力の戦いでは負けますから。
【黒木】力は早稲田のほうが上ですか?
【佐藤】絶対上です。後半の顔ぶれを見て、1対1では勝てないと思いました。でも5対5なら勝負になる。勝つためには相手の嫌がることをするしかないと私なりに考えて、それに徹底した部分はありましたね。
(小川 剛=構成 川本聖哉=撮影)