【黒木】選手たちはどうでしたか? 恒例の胴上げではなく、ゴールエリアに一列に並んで深々と一礼したのがとても清々しかった。

【佐藤】最後の10区、残り8キロを切った辺りで4年生のキャプテンから私の携帯に電話があったんです。彼らも勝てると思ったんでしょうね。胴上げしたいという話でした。陸上関係者だけならわかってもらえるかもしれないが、一般の方も大勢いるから胴上げだけは絶対にやめなさいと。歓びを表現するのはいいから、どのようにやるかは4年生で話し合って決めろと指示しただけです。コースへの一礼は私が指示したと思われていて、おかげで学校でも非常に評判がいいんですが、実はそうじゃない(笑)。指導する立場として優勝も嬉しかったですけど、あのシーンも胸が熱くなりましたね。

本番での柏原君の決断

【黒木】往路は大体、想定通りの展開だったんですか?

【佐藤】ウチのエースは4年生の大西智也(2008年11月の全日本大学駅伝で1区区間賞)なんですが、足を傷めていて使えるかどうか心配があった。2区で失敗するとダメージが大きいので、大西を3区にスライドさせてダメなら外そうというオーダーでした。だから2区は若干無理があった。レース後の検査でわかったんですが、2区を走った山本浩之は11月のレースで疲労骨折していたんです。だから本当に紙一重ですよ。

【黒木】選手は走りたがるものだし、監督としてはケガを見抜くというか、選手のコンディションの把握にはご苦労されるんでしょうね。

【佐藤】走れなかったら外すんですけど、練習も普通に走っていましたからね。

【黒木】5区では柏原(竜二)君というスーパースターが出てきた。「山ノ神」と言われた今井正人君(順天堂大学 現トヨタ自動車九州)の区間記録を47秒も更新。驚きました。

【佐藤】5区で流れが変えられるかなというのは一つありました。6番手ぐらいでつないで、柏原が頑張って3番手で上がれば上出来というのが本音でした。九番でタスキを受けた柏原の最初の5キロは15分20秒くらいの設定だったんですが、手元の時計を見たら14分48秒。とてつもなく速い。思わず「速いぞ」と声をかけたら、彼はヒューンと行ってしまった。今まで私の言うことを全部聞いていた子が本番で無視ですよ(笑)。

【黒木】行けるという感触ですか? それとも……。

【佐藤】行けるというより、スピードに乗っちゃっているから流れ的に落とさせるわけにいかない。もう指示としては「行け」ですよ。でも、「ああ、これは小涌園辺りでヨレヨレになるな」という悪い予感が頭をかすめたことは事実です。ウチはここ2、3年、上りで痛い目に遭っている。平地の貯金を全部使い果たして、借金までしていましたから。