スティーブ・ジョブズは「七転び八起き型」

タイプII「七転び八起き型」は、自分自身の過去の体験を活用するプロトタイピングです。アップル創業者のスティーブ・ジョブズが、大学中退後に興味本位で学んだカリグラフィが、後にマッキントッシュのフォントに生かされたという有名なエピソードは、その典型的な例です。

逆に、辛い経験もプロトタイピングとして活用できます。質の高いサービスで他社の約2.5倍を売り上げる長野の中央タクシーは、創業者の宇都宮恒久会長が、父親が再建を手がけたタクシー会社での挫折をバネに、理想の会社を目指してつくり上げました。家電製品に参入して躍進しているアイリスオーヤマも、過去に経営環境の変化で倒産寸前まで追い込まれた経験が、「いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立する」という企業理念に反映されています。

タイプIII「創造的模倣戦略」は、他人・他社の失敗・成功体験から学ぶプロトタイピングです。中央タクシーの宇都宮会長は、会社を創業後、京都で成功しているMKタクシーに足繁く通い、同社の取り組みを参考にサービスの改善に取り組みました。ネスカフェアンバサダーも、ビジネスモデル検討の過程で、江崎グリコの“置き菓子”サービス「オフィスグリコ」を研究しています。JR東日本のスイカが、香港のオクトパスの成功を参考にしたのもこのタイプです。

自社のインフラに他社のサービスを組み合わせる

タイプIV「ユーザー・パートナー参加型」は、ユーザーや補完・供給者を巻き込んで行うプロトタイピングです。ビジネスのサイクルが速くなっている中で、プロトタイピングの段階から他社と一緒に取り組むケースが増えてきています。

例えばハウステンボスは、ロボットが接客する「変なホテル」などで、ロボットメーカーと一緒にプロトタイピングを行っています。また、ネスレは、ソニーモバイルコミュニケーションズと組み、ネスカフェ アンバサダーなどによって普及したコーヒーマシンにネットワーク機能を組み合わせてIoTサービスの提供を始めました。このように、自社(他社)のインフラに他社(自社)のサービスを組み合わせる方法は、新規事業を成功させるうえで有効なプロトタイピングと言えます。

プロトタイピングは、このように4つに分けることができますが、事業に成功しているケースを見ると、1つだけでなく、4つすべてを行っていることがわかります。自分の体験を生かし(タイプII)、他社の成功に学び(タイプIII)、他社の成功を自社に置き換えて計画し直す(タイプI)。その際に、他社を巻き込む(タイプIV)ことによって成功を加速させています。一般にプロトタイピングと言った場合、タイプIのみを考えがちですが、他の3つのタイプも合わせて考えることが、事業の成功への近道になります。

突き詰めれば、「人生はすべてプロトタイピング」と言えます。今は苦境にあっても、その経験はプロトタイピングとして、将来のビジネスにきっと生かせるはずです。

宮永博史(みやなが・ひろし)
東京理科大学大学院イノベーション研究科技術経営(MOT)専攻教授
東京大学工学部卒業。MIT大学院修士課程修了。NTT、AT&T、SRI、デロイト トーマツ コンサルティングを経て2004年より現職。近著に『ダントツ企業─「超高収益」を生む、7つの物語』『世界一わかりやすいマーケティングの教科書』。
(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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