定義変更は「ビール新時代」の幕開けか

キリンも「市場活性化の後押しになる」(布施社長)として、副原料を使用した個性派ビールを4月に発売する計画だ。サントリービール、サッポロビールもこれに追随する方向にあり、サッポロは静岡県のビール工場に多品種少量生産に対応した新設備を導入することを発表した。その意味で、定義変更は「ビール新時代」の幕開けともいえ、ビール大手の力の入れようもこれまでと違う。

これまでビール市場は酒税法の影響で、税率に応じてビール、発泡酒、第3のビールという種別にわけられてきた。だが税率は段階的に見直され、26年までに一本化される。4月の定義変更は「税率一本化」を見据えた新時代のスタートとなりそうだ。

酒税法の改正は、欧州連合(EU)などから問題視されてきた「非関税障壁」の撤廃でもある。とりわけ、1000を超える銘柄のある「世界一の地ビール王国」のベルギーは、副原料などの関係で格下の発泡酒として扱われてきた銘柄も多く、ベルギーは日本政府に改善を強く要請していた。

今回の定義変更について、ベルギービールの国内輸入代理店の関係者は、「ベルギービールにとって新しいスタートとなる」ともろ手を挙げて歓迎する。これを好機とにらんでいるのは、ビール大手やベルギービール関係者にとどまらない。元々、個性的な味わいを売りにしてきたクラフトビールや地ビールの事業者にとっても、商機拡大のチャンスだ。

米国においては既に、クラフトビールがビール市場全体の2割を超え、存在感は増す一方だ。日本でもクラフトビール人気は高まっており、キリンは国内で「よなよなエール」で知られるヤッホーブルーイング(長野県軽井沢市)と資本・業務提携し、米国のクラフトビールメーカー、ブルックリン・ブリュワリー(ニューヨーク州)にも16年に出資した。サッポロホールディングスも17年に米アンカー・ブリューイング・カンパニー(カリフォルニア州)を約90億円(8500万ドル)で買収。付加価値の高さに妙味があり、成長力もあるクラフトビールの取り込みに動く。

消費者の価値観の変化を背景に、「大量生産・大量販売」(マスプロ・マスセールス)の時代は終わりつつある。実際、ビールで国内トップを独走するスーパードライの販売数量は、17年は前年を2.1%下回る9497万ケースと29年ぶりに1億ケースを割り込んだ。それだけに、縮む市場を埋めるきっかけとなり得る定義変更への期待感は募る。しかし、個性派ビールはニッチ市場を取り込む商品だ。メガブランドの落ち込みを補える保証はない。

定義変更は確かにビールに商品開発の自由度を与え、新たな消費者を引きつける材料にはなる。ただ、商品の多様性を発信する目先効果だけでは、すぐにしぼんでしまうだろう。ビール大手にとり、ぬか喜びに終わらないためにも、各社の取り組みの本気度が試される。

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