銀行のビジネスモデルを真っ向から否定
セブン銀行の前に、まずは普通の銀行がどのようなビジネスモデルなのかをおさらいしておこう。あえて単純化すれば、「銀行のビジネス」は基本的に「預金者」からお金を集め、集めた資金を企業や個人などの「融資先」に貸し出し、その「利子」を得ることで成り立っている。
つまり「銀行のビジネス」にとってのお客様は、「預金者」でなく「融資先」であり、そこから得る「利子」が企業でいう売上に相当する。また、「預金者」は資金を提供する供給者であって、「利息」という形で、提供した資金に対するリターンを得ている。
一方で、セブン銀行のビジネスモデルはまったく異なる。まず銀行業の根幹ともいうべき「融資」というものをしないのだ。「預金者」から資金を集めないし、店舗もない。つまり、従来の銀行のビジネスモデルを真っ向から否定しているようなものだ。
銀行業界のノウハウは、いかに焦げ付く(貸したお金が返ってこない)ことなく融資を実行するかにあった。つまり、いかに焦げ付きを最小限に抑えるかに既存の銀行ビジネスの根幹がある。銀行業界が、セブン銀行の「融資」を一切行わないというビジネスモデルを「素人の発想」と笑ったのも無理はない。
提携金融機関に「手数料」を支払わせるモデル
実は、セブン銀行はATMの利用料で稼ぐシンプルなビジネスモデルである。しかも利用者が手数料を支払うのではなく、600以上ある提携金融機関(銀行も含まれる)が手数料を支払うというのがミソだ。
たとえば、セブン銀行の提携先にA銀行があるとする。A銀行に口座を持つ顧客は、普通はA銀行の支店に出向いてお金を出し入れするだろう。それとまったく同じように、顧客はセブン銀行のATMを使ってA銀行の口座からお金を出し入れできる。つまり、セブン銀行のATMは、この利用者にとってはA銀行のATMとして機能するのである。
基本的に利用者はATMの手数料を支払う必要はない。利用者に代わってATMの手数料を支払っているのは、利用者がお金を引き出している(あるいは入金している)A銀行なのである。つまり、「セブン銀行の顧客は銀行」なのだ(提携金融機関や時間帯によって利用者が利用料を払う場合もある)。
A銀行の顧客は、支店よりセブン-イレブンが家の近くにあり手数料もないとなれば、セブン銀行のATMを使うだろう。しかも銀行と違って、セブン-イレブンは365日24時間、休みなく開いている。いつでも安心してATMを使うことができる。
では、金融機関がお金を払ってまでセブン銀行のATMと提携するのはなぜか。自らATMを設置するには、コストがかかる。セブン銀行のATMと提携して、顧客が利用したときだけ手数料を支払うほうが、金融機関にとってもはるかに安上がりなのだ。
金融機関のなかには、もともとATMをそれほど設置していない証券会社や信金などがある。全国に約2万店あるセブン-イレブンのATMが使えるようになれば、顧客の利便性は一気に高まる。このように金融機関にとっても、セブン銀行はありがたいサービスなのである。