準備すべきインフラ整備とコンテンツ開発

――インバウンドのさらなる上昇にはなにが必要でしょうか。

個々の施策を点でやるのでなく、港の整備や航空路線の増加などの交通網整備、文化の発信など、俯瞰的に見ながら広がりをもって取り組まなくてはなりません。必要条件と十分条件を整理して準備すべきです。必要条件がインフラ整備であり、十分条件が旅のコンテンツ開発です。

『観光先進国をめざして』(田川 博己著・中央経済社刊)

「ポストオリンピック」(五輪以後)に向けた観光戦略が必要です。大会期間中、東京の映像が世界中に4週間流れるのですから、徹底的に売り込まなくてはならない。夏の東京の街だけではなく、昼夜四季折々を組み合わせた東京や地方の映像もオープンに見せるのです。

ロンドン五輪は街の見せ方が上手でした。会期前、イギリス政府はエジンバラやウェールズ、湖水地方などの地方観光をアピールして、大会期間中は、マラソンコースなどでロンドンを宣伝しました。日本も、東京より地方を宣伝したほうがインバウンド客の関心を引くはずです。たとえば19年のワールドカップラグビーは全国12都市で試合が行われますから、地方を売り込むチャンスです。

――五輪を景気を活性化させる起爆剤とするには?

1964年の東京五輪では、開催後3年間は不景気でした。あれだけのインフラ投資を行ったのですから、反動があるのは当然です。しかし今回のインフラ投資は限定的ですから、それほど心配はないはずです。むしろ既存のインフラを活かす整備を行ってはどうでしょうか。たとえば都心部にサイクリングロードを整備してはどうでしょう。50キロほどの長さがあれば、旅行者の新たな楽しみになります。都市型リゾートにもっと着目すべきです。

日本でこれだけ観光が注目されたのは初めてです。19年1月からは観光立国の財源にするための国際観光旅客税(仮称)の導入もあります。大きなシフトチェンジが起きているのです。戦後の日本はものづくりばかりで、物流・金流はそれに追随しましたが、外国人を積極的に受け入れる“人流”には取り組んできませんでした。20年を「人流元年」とすべきです。

田川博己(たがわ・ひろみ)
JTB会長
1948年、東京都生まれ。慶応義塾大学商学部卒。71年、日本交通公社(現JTB)入社。99年米国法人日本交通公社取締役副社長。2000年に帰任し取締役営業企画部長、02年常務取締役東日本営業本部長などを経て、08年社長に就任。14年会長。日本旅行業協会会長。近著に『観光先進国をめざして』(中央経済社)がある。
(取材・構成=上本洋子 撮影=根本英明)
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