藤井四段が天才と呼ばれる理由
若者離れした基礎能力という点では、語彙の豊富さも注目を浴びている。「僥倖としか言いようがない」「望外の結果」……。これらは藤井四段が報道陣に対して使った表現だ。
読書家であることは有名で、家族が所有する本を手に取る機会が多く、村上春樹『遠い太鼓』などの旅行記を愛読し、新聞にもよく目を通すという。奨励会当時から藤井四段を密着取材していたジャーナリストのタカ大丸氏は、こう振り返った。
「藤井家の本棚には将棋の本が並んでいましたが、専門書が溢れんばかりに並んでいる印象ではなかった。藤井四段は小学校低学年で、分厚い定跡の本を丸々1冊暗記したそうです。また江戸時代に作られた難解な詰将棋が200問載っている問題集を、小学生の時点で9割方解いた。いろいろな本を読み漁るというよりは、厳選した古典をバイブルとして、何度も読むスタイルなのです」
大丸氏が見たところによれば、漫画はほとんどなく、同世代が時間を費やすテレビゲームもやらなければ、テレビもほとんど見ない。「将棋が唯一の趣味で、ほとんどの時間を将棋に費やしていた」という。
「奨励会を勝ち抜くと四段に昇格し、賃金が発生するプロ棋士になれます。だからそこまでは友達をつくる余裕はなく、全員が敵という世界。よって四段になると安心して気が緩んでしまい、昇格時が実力のピークになってしまう棋士も少なくありません。それが藤井四段は、奨励会で誰よりも長く深く勉強していたし、昇格後もいちばん勉強している。よく天才と称されますが、それは努力を続けられるという才能の持ち主だからではないでしょうか」(大丸氏)
2002年、愛知県生まれ。5歳で将棋と出合い、すぐに頭角を現し、7歳でアマ初段に。16年、史上最年少の14歳2カ月で四段に昇格。プロ棋士になる。プロ初対局から公式戦29連勝を記録し、中学3年生にして世間の注目を集める。18年2月1日に五段、さらに2月17日に六段に昇段した。師匠は杉本昌隆七段。