“樫本追っかけ”の私としては忙しくなる!

【大前】これは多分言えないと思うけど、ベルリン・フィルを一定期間経験して、次のフェーズというのは何か描いていらっしゃいますか?

【樫本】いや、正直なところ何も考えていないです。オーケストラをやって、ソロをやって、室内楽もやって、ヴァイオリニスト活動としてはいろいろやらせていただけているので、これを大きく変える必要はないのかな、と。

【大前】なるほど。でも、“樫本追っかけ”の私としては忙しくなる!

【樫本】今のところ、全部楽しい。どこかつまらないと思ったら、それを切ってしまっているでしょうから。

【大前】そうか。仲間はどうやって集めるんですか?

【樫本】何のですか? 室内ですか?

【大前】たとえばオクテット(八重奏団)とか。

【樫本】ベルリン・フィルのオクテットはもともと80年以上の歴史があるグループなんです。当然メンバーは変わっていくわけで、前回少し大きめなメンバー交代があったときに、「お前、やりたくない?」って声をかけてもらいました。

日本人にとって誇りや勇気の源泉になる

【大前】栄えあるベルリン・フィルの第一コンサートマスター、日本人としては2人目(1人目は安永徹氏)ですけど、他方で日本の赤穂・姫路にもしっかりアンカーを打って活躍されている。そういう日本人は非常に希です。私も日本企業のグローバル化をずっと手伝ってきましたが、それを育つ過程で自然体でやられて、世界の第一線で活躍されているというのは素晴らしいことだと思う。

私は日本人にもっと外向きになってもらいたいと思ってビジネスの世界で活を入れているんですけど、「自分には無理だよ」と思っている人も多い。そういう人たちに樫本さんの活躍のレンジを知ってもらいたいと思う。

『大前研一 日本の論点 2018~19』プレジデント社

小澤征爾さんの『ボクの音楽武者修行』(新潮社)という本があるんですよ。昔、それを読んで私はすごく刺激を受けた。24歳で一人バイクに乗ってヨーロッパを旅してブザンソンの国際(指揮者)コンクールで優勝し、カラヤンやバーンスタインのような一流と出会う。彼も世界に打って出ようという世代の人なんですね。

やっぱり樫本さんにも音楽のメッセージはもちろん、ご自分の人生やものの考え方を本に書いていただいて、パーソナルヒストリーを多くの日本人にシェアしていただければと思います。日本人にとって誇りや勇気の源泉になるし、課題の克服の仕方とか学びもたくさんあるでしょう。

世界に行きたいと思っている日本人に、コンフォタブル(快適)に国内に安住している日本人に対して贈り物をして欲しいなと思う。今後のますますのご活躍、お祈りしています。

【樫本】ありがとうございます。

樫本大進(かしもと・だいしん)
ヴァイオリニスト。1979年ロンドン生まれ。1996年のフリッツ・クライスラー、ロン=ティボーの両国際音楽コンクールでの1位など、5つの権威ある国際コンクールにて優勝。マゼール、小澤征爾、ヤンソンスなどの著名指揮者のもと、数々のオーケストラと共演。室内楽においても、クレーメル、バシュメット、堤剛、パユなど世界有数のソリストと共演し、2007年には自ら音楽監督として「ル・ポン国際音楽祭~赤穂・姫路~」を開始。2010年、ベルリン・フィル第1コンサートマスターに就任。使用楽器は1674年製アンドレア・グヮルネリ。樫本大進氏の最新情報は、https://www.japanarts.co.jp/artist/DaishinKASHIMOTO に掲載中。
◆パーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団 第1880回定期公演
サン・サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 作品61 を演奏
2018年2月16日(金)19:00 NHKホール 2月17日(土)15:00 NHKホール(問)N響ガイド 03-5793-8161
◆樫本大進&キリル・ゲルシュタイン デュオリサイタル 日本ツアー
2018年6~7月開催予定。詳細後日発表。 (問)ジャパン・アーツぴあ 03-5774-3040

 

(構成=小川 剛 撮影=大沢尚芳)
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