グーグルは「上空」から「地上」に攻めてくるか

【藤本】「地上」と「上空」は競争的でも補完的でもあります。したがって「重さのある世界」がもつ課題と「重さのない世界」で発展するICT層の潜在力をいかに健全に結び付けていくかが21世紀の課題です。ところが米国では、インターネット、スマートフォン、情報サービスといった「重さのない世界」を席巻する盟主企業がいるためか、使う言葉がどうしてもインターネット寄りに偏りがちです。

IoTという概念も、文字通り「Internet of Things」というだけの意味だと、本質を誤解させかねません。たしかにさまざまな機械、デバイスにつけたセンサーを介して生活空間や工場、乗り物から大量のデータを収集し、高速処理して、現場現物の改善に役立たせることは産業現場の多くで最重要課題の一つです。でも、そうしたデータを送る先が常に「上空」のインターネットであるとは限らないでしょう。企業内のイントラネットにつなぐだけでよい場合もあるし、製造現場近くに置いたAIで集めたデータを処理した方が効率化することもある。私は今後の製造業の在り方の本質はIoTではなく、「IfT」(Information from Things)、つまり「現場から良い情報をとれ」ということだと考えています。また、やみくもにモノからデータをとっても仕方がありません。そもそもどこにセンサーを付け、何を検知するかの現場のセンスが大事であり、ビッグデータも「大量の良いデータ」でなければ意味はありません。

重さのある世界とない世界、サイバーと現場現物空間(フィジカル)、ICT層とFA(生産工程の自動化)をそれぞれバランスよくつなぎ、全体最適と全体進化を図るのが、21世紀の企業に求められる「デジタルものづくり」のあるべき姿です。

【安井】しかし「上空」のサイバーは米国系企業が支配しています。「地上」では日本の製造業は依然として競争力を持っていますが、徐々に「上空」から「地上」に攻めてくるという事態が起きそうです。日本勢はどういう戦略を立てればいいのでしょうか。

【藤本】今後、重要になるのが「低空」領域です。ICT企業が制空権を握っている「上空」と「地上」とのインターフェース層である「低空」の主導権争いが世界規模で展開されると予想しています。ここでは日本も欧米に負けずしっかり主導権を取ることが必要です。