ミシュランに「僕」のことが書いてある
――ピンチを乗り越えた「ビストロアンバロン」に朗報が飛び込みます。ミシュランガイドへの掲載でした。2014年から現在まで、4年連続で掲載されています。ミシュランガイドでの紹介のされ方は、両角さんにとってうれしく、理想的なものだったそうです。
ミシュランガイドの評価には4段階あり、三ツ星、二つ星、一つ星、それから安くてうまい「ビブグルマン」。ウチはビストロの価格帯なのでビブグルマン。店の快適度は、フォークの数で表されていて、「豪華で最高級」になると5つになります。ウチは1つなのですが、フォークの色が黒ではなく赤いんです。赤は「特に魅力的」という意味。ビブグルマンの店は、たいてい黒フォークなんです。それから、ウチには「ワインマーク」がついていて、これは「興味深いワインが飲める」の意味。
僕自身が行きたいのは、カジュアルで、快適で、ワインリストが充実している店。つまり、ビブグルマンで赤フォーク、ワインマーク付きなんです。自分のもっとも行きたい店をつくる、という僕のコンセプトを考えると、最高の評価をいただいていると思っています。
また、寸評にこう書いてあるんです。「何よりの魅力は、自らサービスにあたるオーナーのホスピタリティ」。サービスマンのクオリティに言及している店は、実はほとんどないんですよ。とくにビブグルマンや一つ星あたりまでには。
僕は、メニューの説明がモリモリなんです。想像力豊かによだれが出るような説明をして、その余韻で料理を楽しんでいただく。好みを聞きながら、コース的な料理の展開を提案することもある。
ただ、お客さまによっては「ウザい。メニューを10分も説明しなくていいから」となる。かなり突っ込んでお客様の懐に入ることもあるので、地雷を踏んでしまうこともある。気分を悪くしたお客さまは、もう二度と来てくれません。でも、僕の暑苦しいサービスがこの店の売りなんです。合わない方には絶対に合わないと思いますが、ファンになってくださる方がいる。リスクを取らなければ、リターンはないんです。
「今日は美味しかった」では、僕の負け
実はお客さまって、自分が何を食べたいか、何を飲みたいのか、意外とわかっていないものなんですよ。わからないんだったら、こちらから提案しようと。あえて「押し売り」をしているんです。
金融機関に勤めていたときも、おべっかを使うよりもお客さまに説教する営業スタイルでした(笑)。ロングランのリレーションシップを考えたときに、おべんちゃらを言ってもしかたなくて、お客さまのためになることを提案しないとダメ、という考えが根底にあるんですよ。
要は、僕が目指しているのは「今日は、楽しかったです」とお客さまに言ってもらうこと。「今日は、美味しかったです」では、僕にとっては負けだと思っています。もっといえば、感動して帰ってもらいたいんですよ。
僕が自分で通うのは、料理がおいしいのは当たり前で、スタッフとの時間が楽しい店。1人で行ったときは相手をしてくれるし、大勢でもそれなりに。料理というより、人で選んでいる。ビジネスは、結局「人」だと思うんです。