勝負の分かれ目は「いかに手間をかけるか」
――みかんの栽培に関しても、ジュース作りにしても、何にしても「やる」と決めたら徹底的にのめりこむのが“谷井流”なのだそうです。ふとしたきっかけで知ったカリフォルニアワインに感動したと思ったら、おいしさの秘密を探るために現地へ足を運ぶ。社員が始めた乗馬クラブに一緒に出かけ、うまく乗れなかった悔しさから、毎日のように馬に乗る……といった具合に。
僕は、何でも自分が納得しないとダメなんです。それも、自分で入っていってね。ナパ(カリフォルニア州にあるワインの一大産地)の白ワインは、エレガントな味で、樽香も効いている。なんでこんな味にできるのか、と思いました。何度も現地に見に行きましたよ。調べると、樽を焦がして使っている。優れたワイナリーからチョイスした、フランス人のお店があるんですが、そこからワインを買って帰りました。多いときは2000本以上持っていました。
農園の池の下を掘って、セラーを作り、瓶熟成させているのですが、長く熟成させるとラベルにカビが生えてきます。フランスではラベルにカビの生えたものに価値がある。でも、ワイン文化のない日本では、きれいなラベルのものしか売れない。ジャムの世界でもそうなんですよ。早く作ろうと思えば、火を1時間も入れればできあがる。でも、フランスでは何年も寝かしてコンフィクチュール(フランス語で「ジャム」に相当する。保存を目的に甘く果実を煮たもの)を作る。
最後は、「時間をかける」というところに行き着きます。今の世の中、何でもできるだけ簡素化しようとする。スピードの時代でしょう。僕は逆だと思っているんですよ。いかに手間をかけるか、をいつも考えています。
良い「土」が、成長という「木」を作る
――最後に、谷井さんの考える「経営の極意」を教えてもらいました。
続けることです。良い習慣を続けることしかありません。自己啓発書に「実は、失敗者と成功者の間にあるたった一つの違いは、『習慣』の違いだ。(中略)私が従う第1の法則は『私は良い習慣をつくり、その奴隷となる』というものだ」という一節がありましたが(『世界最高の商人』オグ・マンディーノ著、山川紘矢・山川亜希子訳、角川文庫)、その通りだと思います。
先日、地元の経済同友会の会合で講演をしてくれというので、「うちは掃除を徹底的にやっている。僕は朝4時半に起きて、トイレ掃除をしている」という話をしたんです。そうすると、こう質問されました。「それって、意味ありますか?」。
僕はこう答えました。「僕はみかん農家なので、最初に『土』を作ります。良い土が良い木を作り、そこにおいしい実がなる。経営者はまず、自分自身に良い土を作り、そこに成長という木が生え、利益という実がなるのではないか」と。見えない世界の話ですが、面倒くさいことをコツコツやらないと「土」は肥沃にならないと思うんです。
あと、僕は実践することを大事にしています。何かを社員に伝えたいとき、まず自分が実践していれば、体験しておけば、話が通るじゃないですか。自分がまずやらないと、他人には言えないという考えなんです。掃除にしても、社長の僕が一番汚れているところをきれいにする。でなければ、社員は自分も掃除しようとは思わないでしょう。
最近、70代や80代の各分野で長く活躍された方とお会いする機会が増えてきたのですが、一流の方はオーラが違います。僕なんか、まだまだ。明日の朝またトイレ掃除に励もうと思います。