この事件では、保護された女児のほうから「家に帰りたくない」「沖縄に行こう」と容疑者を誘ったことが明るみに出て、メディアで大きく報じられた。

女児を不幸な環境から救い出した?

ノンフィクション・ライターの河合香織はこの不可解な事件に注目し、拘置所にいる植木と面会や手紙でのやりとりを重ね『誘拐逃避行』(新潮社)を上梓した。その中で、家庭内にさまざまな問題を抱えていた女児と、独り身のさえない中年男が、互いの孤独を補い合うようにしていた様子をこう描いている。

「(植木の)ひげを、めぐ(作品中での女児の仮名)は慣れない手つきでそり始めた」

37歳差の恋人とでもいえるような甘美な情景や、女児が運転手に「こっから一番近い泳げる海へ」と話しかけるシーンもある。

逮捕後、女児を不幸な環境から救い出したと訴えていた植木だが、法廷では容赦なく植木の本性が暴き出された。本の中で河合は、検察側と植木との間でこのような攻防が繰り広げられたと書いている。

「『確認しますが、あなたが今回沖縄につれていっためぐちゃんと呼ばれる女の子に対して、その女の子の陰部をなめたりなどしたことはあるんですか、ないんですか』(中略)「はい」か「いいえ」で答えてください』

『……はい』」

植木の部屋から『クミコ小学4年、ヒロコ5年生』のようなわいせつビデオが何本か押収されている。しかし、女児への人権上の配慮もあってか、植木のわいせつ行為は法律上何ら罪に問われることはなく、未成年者誘拐と恐喝だけで2年6カ月の有罪判決が下された。

風呂には3、4年入っていない

「もう7年間になりますかね。私は自宅アパートの部屋に引き籠っています」

そう植木は話す。東京・祖師ヶ谷大蔵駅から徒歩5分、家賃4万5000円、8畳一間のアパートを「引き籠りの拠点」としている。食事はファミリーレストランのデリバリーなどで済ませ、生活保護を引き出しに出る以外ずっと家にいる。風呂には3、4年入っていないそうだ。

記者が部屋を覗くと、積もったままのゴミは成人男子の背丈ぐらいまであり、そのゴミが玄関まで押し寄せ、戸を閉めることが困難なほどだった。

黒のTシャツ、紺の短パン姿。むき出しの脛のあたりには黄色い垢がこびりつき、体全体から「曰くいい難い腐臭が漂っている」(『新潮』)。

だが、これも植木によれば、「ゴミ部屋に籠っていれば、私が小さい女の子と接する機会を『強制的』に断つことができます。それに、こうしていれば、女の子たちに懐かれることもないですし」。それほど、女児に対する執着が強いということであろう。