1日遅れになった残念な産経新聞

8月29日付の全国紙では、読売、朝日、毎日の三大紙が「臍帯血」を社説で取り上げた。一方、同日の産経社説は「北方領土」と「学力テスト10年」を取り上げ、日経新聞は「次世代無線通信」と「産学連携」を書き、無視する形になった。

翌日の30日付で産経は他紙を追いかけるように「再生医療の信頼損なうな」との見出しを付け社説(主張)を掲載している。同様に日経も社説で「臍帯血」を取り上げた。

沙鴎一歩は、かつて新聞社の論説委員として社説を担当した経験がある。人の命や健康に関わるテーマの社説ほど読者の目に止まるし、新聞の価値を高めるうえで重要だ。経済を専門とする日経はともかく、「一般紙」の産経の社説が他紙より遅れたのは残念である。

効果とリスクを秤にかけるのが医療

冒頭にも書いたように、他人の血液を自分の体内に入れるのは非常に危険だ。そしてその危険性について、まだ国民の理解は十分ではない。たとえば小中学校で教育プログラムを組んで、すべての国民が「医療行為のリスク」を認識できるようにするべきである。

一般的に医療にはリスクがともなう。そのため医療行為では効果とリスクを秤にかける。リスクが効果を上回るようであれば、医療行為は中止されるケースが多い。

たとえば臓器移植という医療。他人の心臓や肝臓、腎臓などの臓器を移植するわけだが、移植される臓器はレシピエント(患者)にとって異物である。このため、移植された臓器を患者の免疫が攻撃する「拒絶反応」が起きる。これが大きなネックとなって移植医療はなかなか進まなかった。

近年になって臓器移植が可能になったのは、免疫を抑制できる画期的な「免疫抑制剤」が次々と開発されたからだ。

その半面、移植を受けた患者は、一生涯に渡って免疫抑制剤を服用しつづけなければならない。服用を続けるのも大変だが、免疫反応を抑制するためインフルエンザなどの感染症にもかかりやすくなる。

さらに一定量の免疫抑制剤を服用するのを忘れた場合、移植された臓器は機能不全を起こし、壊死してしまう。臓器移植にはそうしたリスクがあるのだ。それでも移植に踏み切るのは臓器移植を受けないと、患者が亡くなってしまうからである。

ちなみに腎臓の場合は透析装置という人工腎臓があるため、透析を受けることで命をつなぐことはできる。ただ、それでも週に3回~4回、1回に5時間ほどをかけて透析を行う必要がある。

国民の命と健康を預かる厚労省の責任

話を血液の危険性に戻そう。人の血液にはエイズウイルス(HIV)、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスなどのほか、未知のウイルスが含まれている危険性がある。こうしたウイルスは不治の病をもたらすことがある。

その危険性に対する知識不足から起きたのが、薬害エイズ事件やC型肝炎問題である。それゆえ厚労省は輸血や血液製剤の投与など血液にともなう医療に関しては厳しいチェックを続けてきたはずだ。それなのにまたもや、臍帯血の事件を引き起こしてしまった。

再発防止のためには、規制だけでなく、「医療行為のリスク」に対する啓発が欠かせない。国民の命と健康を預かる厚労省にはその責任がある。そして新聞社は社説で、その責任を厳しく追及するべきだ。

これが今回のコラムでの沙鴎一歩の一番の主張である。

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